はる

aftersun/アフターサンのはるのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
5.0
爽やかチョイ泣き映画くらいだと思って完全に油断してたのですが、観終わってからしばらく引きずるほど素晴らしい作品でした。それと本作は細かな部分にこそ重要な意味が込められているので1回目よりも2回目の鑑賞の方が俄然面白いです。

私も両親が離婚しているのでソフィの気持ちにある程度共感したんですが、それよりもポール・メスカル演じる父親に対して激しく共感をしてしまい観終わってガクッと気が落ちてしまいました。彼のように子供の頃夢見たような将来とはかけ離れた現状に死ぬ事しか考えられない気持ちは痛いほど良くわかります。大切な人の前では何ともないように振る舞ったり、彼の場合の太極拳やダンスのように少しでも頭から死を突き放そうと何かにすがったり、それでも夜に1人になると涙が出てきて思考もぐちゃぐちゃになっていく。彼の場合おそらくとっくに限界でそんな中でこの旅行の計画が立った。今にも生きる事を諦めてしまいそうな日々の中で、きっとこの旅行まで生き抜こうと最後の力を振り絞ったのだと思います。真剣に護身術を教えたり、なけなしの金で絨毯を買ったりと娘に何かを残そうとする姿からもハッキリ死を決心しているように見えました。しかしながら未来の話をするシーンも多く未練も感じられます。それが爆発するのが娘に誕生日を祝われた後に1人で涙するシーン。死を決心したはずなのにそれが揺らいでしまう。こんなにも死にたいのに生きたくて仕方がない苦しさ。彼は劇中何度も印象的な背中を見せています。

ソフィに関しては思春期を迎え、大人への憧れや性への興味などの微妙な心の機微を彼女の視線を思わせるカメラワークで秀逸に描いています。そして大人になり親になりようやくあの頃の父親の苦しみに気づき始めた成長も同時に描かれていてこれをほとんど説明無しでやってのけているのがこの監督の凄さだと思います。

とてもパーソナルで繊細な作品でありながらUnder Pressureの大胆な使い方からして一筋縄ではいかない監督なので、今後の作品にも自然と期待が高まります。ポール・メスカルとフランキー・コリオもこの先大物になっていくこと間違いなしでしょう。ほとんどノーマークの作品にここまで打ちのめされるとは。
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