呪い
本作を観てはじめに思い出したのはソナチネとときめきに死すの2本だった。
どちらも死を迎えるまでのモラトリアムを描いている。
本作もその点が一致していてだから思い出した。
しかし、本作がその2作と違うのは死がどこから向かってくるかだ。
先にあげた2作が向こうから死がやってくるのに対して本作はどこから来たのかがわからない、何がスイッチでお父さんは向こう側に行ってしまったのか?それをめぐる一種のミステリーのような作りになっている。
11歳という自我が確立したあとの人生を間近に控えた娘と
31歳という責任を確立させた人生を間近に迎えたお父さん
人生の全く違う岐路に立たされた2人がその前に訪れたバカンス、なんでもない時間
モラトリアム…
モラトリアムな時間というのはすごく残酷だ。この時間を共有しているときだけ人は等しく平等で成長する必要もなく悩む必要もない
だからこそ、その後に訪れる人生に酷くくたびれてしまう。
モラトリアムとは決して戻らない故に振り返ってはいけない時間だ
あまりにも甘美で優雅で無敵で
作ろうとしても作り出せない、抜け出せない
モラトリアムな時間を描くというのは映画のおはこで、でも実は非常に残酷だ。
そしてはこの映画はそれを娘が拭いきれない後悔と共に振り返るという構造を取ることによってその残酷性を高めている。
どうしてこんな悲しい映画を撮った?
でも映画にしかこんな悲しい物語は語りようがなかったというのも真実で
映画が誰かの歴史を振り返るものならこれほど映画を信じている作品もないだろう