こうじ

aftersun/アフターサンのこうじのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
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父と娘。夏休みのリゾート地での出来事を淡々と紡ぐ。カメラワークやカット割りは独特だ。ハンディカメラの映像を交え、父と娘のどうということのない会話が続く。ありふれたシーン、ありふれた会話。二人について説明はない。
正直、退屈だ。失敗したかなと思い、途中でやめようかなと思った。
そんな頃に、不穏な何かがスッと忍び込んでくる。
やがて、ささやかなその不穏は、まるで生地に液体がじわじわ染み込むように、物語全体に染み入ってくる。
シーンも会話も変わらずありふれているが、われ知らず緊張感を感じながら観てしまっている。もうやめようとは思わない。
不穏がどんどん募っていき、父娘の関係性に察しがついてくる。そして、ラスト。
大きな感情の動きはない。感動したとか、泣けたとか、わかりやすいカタルシスはない。
だが、何か心の奥でかすかにざわざわと蠢くものがある。それが何なのか釈然とせず説明もできない。
若干のモヤモヤをおぼえたままベッドに入り、電気を消した。
寝ようとして眼を閉じたとき、なぜだか心の奥から込み上げるものがあり、涙が溢れてきた。自分でも驚き、戸惑った。
涙の正体をうまく言い表すことはできない。
それはもちろん映画の影響であるし、個人的な過去の体験の何かでもあるように思える。
それにしても、なんだこの時間差は???
どこかの秘孔を突かれでもしたのか?
訳がわからない。こんな体験は初めてだ。
不思議な映画だ。
簡単に人にお勧めはできない。

ちなみに、父親役はポール・メスカル。最近では邦画の名作「異人たちとの夏」をリメイクした「異人たち」に出演しているが、なんといってもリドリー・スコット監督の「グラディエーター2」の主役に抜擢されたことで話題を呼んだ、今後目が離せない注目の若手俳優だ。
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