役人者

aftersun/アフターサンの役人者のレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
3.9
父親との距離感の転換点に差し掛かる、11歳というお年頃のソフィ。友達みたいな親子関係に満足しつつも、訪れかけてる思春期に勇み足で半歩踏み込んでみる。そんな娘と過ごす幸せな時間の中、ふとしたきっかけで凍りつく父の笑顔。その苦悩に、子供のソフィは気づかない。仲良し親子のバカンスによぎる、ややヒリついたすれ違い。そのすれ違いの根底にあるものの正体が、徐々に明らかになりそうで全然明らかにならない。全貌をはっきりさせない脚本と演出の向こうに、多くの含みがぼやけて見える。心をくすぐり続ける正体不明の揺らぎが、終盤で爆発する。
最後まで見終わって反芻してから、改めて各場面を思い返すと、実はそこに折り重なっていた想いの深さに泣けてくる。不確かな記憶を辿る作業の中に、いつの間にか自分自身の人生が投影されて、映画の記憶が自分固有の思い出として更新されていく。大人になってから、子供の頃の父との思い出を紐解き再構築する、大人ソフィの主観を追体験してるような気持ちになる。再構築された思い出の中で大人ソフィの心に刻まれたのが、父の苦しみに寄り添えなかった罪悪感よりも、父が抱いていた深い愛情の方であって欲しいと思った。
作品全体の傾向と同じように、父役ポールメスカルの演技についても、後から思い返して初めてその真価を理解できる気がした。子供ソフィ役のフランキーコリオ(新人)が滅茶苦茶可愛い。滅茶苦茶可愛いんだけど、全然あざとくない。演者本来の魅力が、自然体な演技から伝わる。
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