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葬送のカーネーションのumisodachiのレビュー・感想・評価

葬送のカーネーション(2022年製作の映画)
4.2



車の後部座席に乗る老人と少女。どうやらヒッチハイクをしているらしいふたりは、やがて何もない道の真ん中で降ろされる。なぜか棺を運んでいる彼らの目的はなんなのか?ほぼ会話なく続いていく彼らの旅の向かう先は……?

静謐なロードムービー。トルコで暮らしていたはずなのにトルコ語を話せない老人と孫らしき少女。彼らはほぼ言葉を交わさないが、彼らに手を差し伸べてくれる人々の多くはとてもおしゃべりだ(運転手がしゃべらない場合の車内ではラジオが流れている)。最初はよくわからない旅の目的は少しずつ明らかになっていく。

少女が手にしていたおもちゃの車輪は、棺を運ぶために外される。少女が描いている絵は「はしたない」と捨てられる。少女に差し出されたお菓子は、老人に禁止される。祖父との旅の中で、いやでも大人にならざるを得ない少女の姿が印象的。結んだ髪を解いて鏡の中の自分を見つめるシーンが忘れられない。そしてむさぼるようにパンを食べていた彼女は、最後にはミルクとクッキーを食べずにいる決断をする。

老人は、唯一の目的を達成することしか考えていないのだが、明らかに死に向かっている。故郷を失い、家族を失い、最後に残った家族の望みを叶えられればそれでいいと思っているのだろう。旅の途中で彼らが出会うたくさんの言葉たちの多くは「死」にまつわるものであり、この世に生まれることは苦しみであるとか、生と死は繋がっているとか、そういったイメージが少しずつ観客の脳内に蓄積されていく。

おそらくシリアから逃れてきた老人は、故郷に向かう道の中で何を思ったのか。逃れてきた土地で生まれた少女は、故郷と死に呼び寄せられている祖父を背後から呼びながら、何を思ったのか。静かで荒涼とした映像と、ときおり挟まれる夢と現の狭間の描写に身を委ねながら、長く続く戦争や難民などの背景についても考えざるを得ない。

最後、祖父はフェンスを越えたのだろうか?それともあれは少女が見た幻なのだろうか。人生最良の日のイメージと共に死に向かう祖父を見つめながら、もう子どもではいられない少女は過酷な現実をひとりで生き抜いていかねばならないのだ。

とても映画らしい映画。ピンクピンクしたポスタービジュアルとキャッチコピーがかなり違和感あるけど。
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