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突然にのbackpackerのレビュー・感想・評価

突然に(2022年製作の映画)
3.0
第35回東京国際映画祭 鑑賞9作『突然に』
【備忘】
映画で伝える視覚以外の感覚へのアクセス。
ーーー【あらすじ】ーーー
ドイツからトルコのイスタンブールへ30年ぶりに帰郷したレイハンは、嗅覚の喪失に直面するも、夫に打ち明けられず一人絶望していた。
ひっそりと蒸発することにした彼女は、実家の空き部屋(かつて祖母が暮らした部屋)に身を隠しつつ、ホテルのマネージャーとして働き始める。
ホテルの従業員や宿泊客、近隣の特別支援学校に勤める盲目の男性教師としりあったレイハンは、心に封じ込めていた感情を取り戻していく……。
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「突然に」失った嗅覚。「突然に」激変した日常。「突然に」戻りたくなくなったドイツ。「突然に」訪れた思い出の地。
時として、物事は「突然に」動き出す。自分たちの人生を変えたいと「突然に」思う。そんな時、人は「突然に」直面した状況に逆らわず、流れに身を任せ、変化を受け入れていくことが肝要となる。
五感は、人間が野生の生物として生きる上で非常に重要なものであり、生存確率を上げるための武器である。
その能力のいずれかを喪失したとしても、原始時代と比較すれば、現代の人間社会はまだマシな環境が整備されつつある。
しかし、例え昔と比べてマシだとしても、五感を失うことが作り出す新しい世界に「突然に」直面することは、相応の重いインパクトを与えるのだ。

しかしレイハンは、身軽になることで、新たな世界に向き合う。それは、自身の構成要素たる歴史としがらみから解き放たれるということ。同時に、直視を避けてきた構成要素に向き合う中で、アイススケーターになる夢や、遠い日に置き去った友人への想いを再認識する。

これは彼女の、自分探しの旅のドラマだ。「突然に」与えられた新たな世界により、自分と世界の繋がりを失ったことで、失った自分の世界を取り戻すための内的探究をするきっかけを得たのだ。
非常に静かで、内に秘めた力を感じさせる作品だった。
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