なべ

イグジステンズのなべのレビュー・感想・評価

イグジステンズ(1999年製作の映画)
4.0
 見覚えのあるシーンがいくつもあり、あれ?これ観たっけかと思ったが、のけぞるくらい生理的な興奮を味わったのできっと初鑑賞。
 本作以降、クローネンバーグはオリジナル脚本を書き下ろしてないので、これが彼の変態世界を味わえる最後の作品といえる。
 描かれてるのはビデオドロームにあった、仮想と現実の境界の曖昧な世界。ビデオからゲームに置き換えたアップデート版だ。
 脊髄に設けたバイオポートにゲームポッドのプラグを差し込んでプログラムをロードするVRゲーム「イグジステンズ」の限定体験会の話。
 インセプションやマトリックスを例に出すまでもなく、この手の映画は山ほどあるよね。もうお腹いっぱいって? わかります。最近ではスピルバーグ翁がレディ・プレイヤー1なんて、無駄に豪華な超駄作をつくってたもんね。でもああいうのとは違うのよ。クローネンバーグがそんなありきたりのものをつくるわけがないじゃん。ぐちょぐちょのギトギトのヌラヌラよ。てか大人が考える仮想現実って、絶対レディ・プレイヤー1じゃないから。あんなの小3だよ。
 想像してみて。チンコみたいなプラグを腰裏のポートに差し込むとき、唾をつけたり、舐めて入れやすくするところを。大人ならこのリアリティわかるよね。おっぱいやおしりが出るからエロいんじゃない。そんなもの出さなくても、エロはいたるところにある。ささいな仕草やアイコンタクトでもエッチはつくれるのだ。クローネンバーグはこうした手触りを決して疎かにしない。いや、執拗なくらい触覚を重視してたから。何かに触れてるカットのまあ多いこと。こういう大人のエロスってほんと大事。納屋でアレグラとテッドが寝そべって臍の緒ケーブルでゲームに繋がってる絵面のいやらしいこと。スピルバーグ翁には真似できないエッチさ。秘密の性的な共感を誘わずして何の仮想現実か(大きな声で)!

 受付・兼警備のかわいいジュード・ロウに始まり、非合法なバイオポート開設手術を行うウィレム・デフォー、修理屋のイアン・ホルムと、名優の変態演技を味わいながら、チカラの入ったガジェットを楽しもう。
 骨でできたバイオメカニクス銃や両生類の卵を培養してつくられたゲームポッドの造形はもちろん、林の奥の中華料理店で出されるヌラヌラギトギトのスペシャルメニュー(突然変異種の爬虫類&両生類の活け造り)を貪り食うジュード・ロウも見逃すな。
 トータル・リコールほどのけれん味はないけど、裏切りに次ぐ裏切り、汚染されるゲームポッド(この時代にコンピュータウィルスを予見してるからね)、皆殺しの逆転劇、どこまでがゲームでどこからが現実なのか(いまはもう珍しくもないけど)わからないメタ構造の果て、到達できる境地がそこ?というハズシ具合も含めてやっぱりクローネンバーグ。

 クローネンバーグは未来人という噂がある。プレステ2がまだなかった頃に、仮想現実の再生マシンとしてのゲーム機ポテンシャルをエッチな雰囲気とあわせて具現化した映画人がいただろうか。当時の観客はこの世界をどこまで理解できたのか。
 いい変態を観せていただきました。ごちそうさま。
なべ

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