実在した歴史上の人物が虚構の世界で生々しく蠢く不気味なファンタジー。
色褪せた廃墟のような空間を彷徨う20世紀が生んだ権力者たち。
画面はいつものソクーロフの映画がそうであるように、深い霧が立ち込め、細かい塵が舞い、妖しげに歪んでいます。
そんな冥界に集った亡霊たちが呟くような声でお互いを嘲笑し、罵り合う様は、何処か滑稽ですらあります。
彼らの眼前に現れた夥しい群衆が、一つの大きな塊となって、大波のように畝り、轟音とも呼べそうな歌声と共に、押し寄せる雷鳴と業火に飲み込まれていくシーンは圧巻です。
このいかがわしい見世物性こそが、ソクーロフの真骨頂とも言えます。
映画の冒頭でソクーロフ自身の言葉として、本作はディープフェイクやAIの類は用いずに、既存のアーカイブ映像のみで構成した旨のコメントが紹介されます。
どちらにせよ、新たに撮影された素材はほぼ使われてないと考えていいでしょう。
この撮ることを放棄したソクーロフの新作は、映画のひとつの未来を暗示した悪趣味なホラーと捉えることも出来そうです。