Hiroki

ファイブ・デビルズのHirokiのレビュー・感想・評価

ファイブ・デビルズ(2021年製作の映画)
4.2
2022カンヌの監督週間作品。
日本作品以外は通常翌春くらいの公開が多いカンヌ作品の中ではかなり早めの公開です。(コンペ外の『キャメラを止めるな』『エルヴィス』『トップガン マーヴェリック』などは既に公開されていますが。)

1989年生まれと若き女性クリエイターのレア・ミシウスはセリーヌ・シアマやジュリア・デュクルノーと同じFEMIS(フランス国立の映像音響高等教育機関)の脚本家コースの出身。
『ルーベ、嘆きの光』でアルノー・デプレシャンと、『見えない太陽』でアンドレ・テシネと、『パリ13区』でジャック・オーディアール&セリーヌ・シアマと、そして同じく今年のカンヌでグランプリを獲得した『Stars at Noon』ではクレール・ドゥニとそれぞれ共同脚本を務めるほどフランス国内では名を馳せている人物。

監督としては前回2017年カンヌの批評家週間に選ばれた『Ava』以来の2作品目。
これは否が応でも期待されるやつですね。

今作は「タイムリープ・スリラー」と謳っているのですが、最近流行りの『ハッピー・デス・デイ』とか『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』みたいなループモノではないです。
ただ物語の中身自体はループモノではないのですが、映画の構造自体がループするように作られているという非常に複雑な作りです。
タイムパラドックスモノは大好物なのでまずはこのタイムリープに関して片付けましょう!

今回のタイムリープの発動条件は人並外れた嗅覚を持ち、香りを調合する事ができる少女ヴィッキー(サリー・ドラメ)が叔母であるジュリア(スワラ・エマティ)の香りを探索する事です。
そうするとヴィッキーはジュリアの若き日(高校生くらい)にタイムリープするのですが、周りの人々には見えません。ジュリアにだけその存在が見えます。(見えるというより感じるというイメージ。)
タイムパラドックスの要素は基本これだけ。
理系的なタイムリープの描き方ではなくここらへんは曖昧な部分も多いまま進行していきます。

では何がループしているのか?
まずポスターにもなっている火事のシーンや空撮シーンなどがループしている(何度もでてくる)という事実はあります。
ここらへんは“ループ”という現象を観客に印象付けているイメージ。
そして最も重要なのはやはりラストにヴィッキーとジミー(ムスタファ・ムベング)の前に現れる少女の存在。
まーみんな初見の少女です。
この少女が一体誰なのか?
ここまでの流れ的には次にタイムリープしてきた少女と考えるのが自然。そしておそらくヴィッキーにしか見えないはず。
これは私の完全なる予想なのですが、たぶんジミーとナディーヌ(ダフネ・パタキア)の間に生まれた子供なのではないかと。
そーなるとラスト前のあのシーンにも必然性が発生してくるんですよね。
そしてその子供はきっと未婚のままナディーヌに育てられるだろうと推察できる。
ジュリアに母を奪われた嫉妬から追いかるようにタイムリープしたヴィッキーを、またジミー&ナディーヌの子供が今度は父を奪われた嫉妬から追いかけてくる。
これで映画構造的な大きなループの出来上がりです。
ジュリア、ヴィッキー、ジミー&ナディーヌの子供という繋がりを考えるとタイムリープの元はおそらくジミー。
超優秀な脚本家であるレア・ミシウスならここらへんまで考えていて当たり前なのでしょう。
本当にあまりに美しい流れすぎて惚れ惚れしてしまいました。

そしてこの映画のタイムリープともう一つの大きな要素はやはりLGBTQ。
ジョアンヌ(アデル・エグザルホプロス)がジミーに対して大声で叫び、ジミーがそれに淡々と応じるシーン。
ここはかなり強烈でした。
もー自分たちは何も隠さないし、黙らないし、逃げない。
そーいう強いメッセージ。
そしてそれを何の感情もなくただただ聞いているジミーはまさに現代社会そのものに感じられた。
否定はしないが、強く賛同もしない。
波風を立てずに「そーだよね。辛いよね。」と訳知り顔をして、時間ががそれを流していくのをただ待っている。
小さな小さなファイブ・デビルズというこの街は地球の縮図そのものだった。
今回はLGBTQだけどおそらくこの映画は社会に抑圧されたすべての人々の背中を押して、抑圧する人々はもちろん、それを見て見ぬふりをしようとする人々の背中にナイフを突き立てる、そんな物語だったのだと思う。
レイ・ミシウスからのめちゃくちゃ強烈なメッセージ。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』を観た時と同じような感覚に襲われました。

そして35mmフィルムで撮ったフランスの片田舎の美しいまでの風景と常に付き纏う不穏な音。
このコントラストもまた絶妙。
また『シャイニング』や『ツイン・ピークス』などホラーやスリラーの名作へのオマージュも満載です。

キャストは主演のアデル・エグザルホプロスがとにかく素晴らしい。
上記の夫への咆哮のシーンは本当に身震いしました。
あとは何と言ってもヴィッキー役のサリー・ドラメがかわいすぎる!髪型とかどーなってんの!
バーみたいな所に家族で行くシーンのスタイルとかオシャレすぎるのよ!

まーここまでの内容を96分に綺麗に詰め込めるレア・ミシウスは天才だと思います。
フランスは素晴らしいクリエイターがどんどん出てきますねー。
彼女のパルムドールもかなり近い将来あるのではないでしょうか!

2022-68
Hiroki

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