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エドワード・ヤンの恋愛時代 4K レストア版のjazzyhalのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

【序】
「映画というものは、たった1本、たった2時間弱で、とても人生を豊かに膨らませることができ、そして魅力的に感じさせることができるものですね。」
映画鑑賞を終えてから一日が経過し、本作に対しての思慮を巡らせる中で、このごく当たり前のことを改めて感じました。

【概略】
観たかったエドワード・ヤン監督の映画が劇場上映されていることを知り、観てきました。
邦題は「恋愛時代」ですが、原題は「独立時代」のようです。
恋愛時代も間違っておらず、実際途中からのドタバタ・トレンディドラマ感はまさにそれを表していますが、よりしっくりきて味わい深い意味をもつのは、独立時代というタイトルの方でしょう。なぜかは後述します。

娯楽映画というよりは芸術映画ですので、
万人に評価されるとは言い難いですが、(寝ないで)観た人の心には、必ず何か爪痕を残す映画でしょう。
私にとって、本作は傑作たる1本です。

【映画内容について】
エドワード・ヤンの中でもトップクラスに膨大なセリフにあふれたこの映画に、鑑賞者はきっと映画冒頭から追いつかないのでは。
更に人物の相関関係もよくわからないし、男性陣なんて最初はどれも同じ顔に見えるので(笑)、おい、相関図をくれよと言いたくなります。
段々と関係性が分かってきて、そしてストーリーが進行し始めると、私はその展開と画面に釘付けになりました。
途中での喜劇じみた笑劇シーンは映画館の皆さん同士で笑い合えるものでした。
そして本作は94年の作品ながら、時代性を感じない普遍的なものが多く含まれています(出てくる携帯はとても大きくて重たいものですがね)
現代に通じるモダンなセンスや、キレの鋭さ、カッコよさ。。今見ても本当にクールです。

本作は若い世代の青春群像劇であり、ほぼ会話が続く内容です。
この中にあって主要な登場人物の皆が少しずつずれており、どこかで想いや行動が交錯しています。だれも勝者たりえない悲喜劇として映画は進行していきます。
映画の最終版に向かうにつれて、この悲喜劇が静かに熱を帯びていき、心に残るシーンが重なっていきます。
フィナーレとなる終幕はとても美しく印象的なものでした。

【私的感想】
しかしながら鑑賞を終えた直後、私はどうしても心に少しばかりの消化不良を感じたこともあったので、
パンフレットを買い、その中に掲載された、ドライブ・マイ・カーの濱口竜介監督の
渾身のレビュー(というかこのレビューを読むために買ってもいいと言えるくらい、素晴らしい内容でした)を
読んで、ようやく合点がいき、自分の考えがまとまっていきました。

なるほど、これは独立するか・しないか、なのですね。
独立とは、色々な意味があるかと思いますが、私は自分自身のことと感じました。
それは、他者からの独立であり、依存からの独立であり、自己の確立・自立とでも言いいましょうか。
この映画の中で、おぼろげながら描かれようとした一つは、まさにこの独立ではないでしょうか。

この汚れた世情にあって、生きづらさを伴う現代にあっては、

それこそがまさに強さとなり、美しさとなること。
そして、自身が生きていく上での希望をもたらすことになるのだ、とも。

最後に、小説家が劇中で叫んだセリフを引用します。
「生きていることは素晴らしい。色を好むとは、人生の喜びを知ることなんだ。それを忘れていた。人生を楽しまないのは、もったいない。つまり目に見える全てのものには知らなかった一面がある。毎日、新しい発見があれば人生は愉快だ。ささいな交通事故も。花や草木、そして生きとして生けるもの、全てが幸福に生きる希望なんだ」


何度も観たい素晴らしい映画です。

※アトム好きのTシャツに笑いましたが、なるほどエドワード・ヤンは手塚治虫から影響を受けているのですね。
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