ブルジョワジー家庭の部屋にセールスマンが押し入り、思わぬ火種が生じる。1988年、バブル真っ只中の都会の高層マンション。今ならオートロックで管理人常駐で厳戒な警備が敷かれるのだろうがこの頃はまだない。主婦・靖子（高橋恵子）は、プログラマーで夫の悟（下元史朗）、息子の拓人（米津拓人）と3人で、都会の高層マンションに住んでいた。いたずら電話やセールスマンの勧誘に神経質になっていた靖子はある日ドアチェーンの間から強引にパンフレットを入れようとしたセールスマン（堤大二郎）の指をはさんでしまう。この時点では偶然の事故に留まるものの、彼女がセールスの仕事をついうっかり罵ることで火種が生じる。男の執拗な嫌がらせは翌日から始まる。ポストには性液付きのティッシュが投げ込まれ、ドアに卑猥な文字を書かれたりするなどいたずらが相次いだ。まぁ本当に心底気持ち悪いしタチの悪い悪戯だ。今では信じられない話だが、当時は携帯電話なんてなく自宅電話だから美人の部屋には心無い悪戯電話が相次ぎ、半透明ビニールになる前の黒ビニールの時代はゴミすら隣人に興味本位で開かれていたという。この頃は個人情報も今ほど厳重ではなく、どこかの誰かに住まいも電話番号も家族構成もみんな筒抜けだったという。

　今作はJホラー以前に登場した早過ぎたホラー映画である。確かにびっくりするような鮮やかな真紅の血やチェーンソーによる恐怖演出はホラーやスプラッター映画そのものだが、監督である高橋伴明の意図は別の所にあった。1988年の横浜郊外の高層マンションでは（エンド・クレジットで横浜ダイカンプラザとある）、スポーツ施設完備の高台に佇む印象的なマンションの住人も核家族化が進み、団地の頃のような隣人との密なコミュニケーションはなく、主婦はしばしば孤独だった。一方で昭和40年代辺りに猛烈な流行を見せた押し売りもセールスへと変わり、トヨタ商事事件のような高齢者への押し売りと共に、孤独な主婦を狙った巧妙なセールスが後を絶たなかったのだ。単なる普通の主婦の電話や施錠、チェーンへのこだわりは今作で何度も繰り返される。靖子は家という日常への侵犯を畏れているのだ。7階の部屋に暮らす彼女は裕福だが、多忙な夫とも殆どコミュニケーションが取れない。友人や警察に助けを求めようが夫に助けを求めようがあまり気に留めてくれず、彼女の恐怖は次第に高まって行く。職人監督である高橋伴明のカメラはアヴァンタイトルでこのマンションの構造をつまびらきにしながら、赤の他人の侵犯の瞬間までじっくり丁寧に描写する。

　ストーカーという言葉が生まれる遥か前の作品だが、ここで行われる孤独者の蛮行はストーカー行為そのものだ。映画は現代人のディスコミュニケーションがもたらす最悪の悲劇を描いている点で、ホラー映画よりもむしろサム・ペキンパーの『わらの犬』のような雰囲気に近い。

平凡な主婦がストーカーに狙われる様子を描いた心理サスペンス。
顔が分からない状態で電話を使ったストーカー行為が陰湿で恐ろしい。
扉や電話は自他を隔てる領域なので、生活スペースに勝手に入られる恐怖も際立つ。
一方的なコミュニケーションは暴力的で直接的な性描写はないが、男性器に見立てたナイフで迫る場面は性行為。
ギャグを挟みつつ緩急がある演出や『シャイニング』のオマージュが良い。
赤マルのカートンを含め懐かしい昭和感も好き。
人妻に恋した男の哀しい恋愛映画的な印象もあり楽しめた

「奥さん、キレイだから」

ドア1枚隔てた向こう側の怖さ
存在が見えない、誰か分からない
自分の住所や電話番号は知られているのに、相手の情報が何一つない匿名性の怖さ
意図的に機械音声を使って、特定できないその他多数を表現しているのが面白い
危害を加えてくる人間がそこに潜んでいる
ストーカーという定義があったのかも怪しい時代で完璧に恐ろしさが伝わってくる
これは怖い…

クライマックスのアングルが面白い
上から俯瞰で撮った天井アングルでの追いかけっこ
『マリグナント』にもあったアングルだけど、この時代でもやってたんだーとビックリする
そもそもこのアングルの元祖ってどの映画なんだろう？気になるところ
不協和音というか急に途切れる音楽も気持ち悪い
音楽で十分に恐怖が伝わる

スプラッター表現
特殊メイクをゴリゴリ使ってる！
そこまでやっちゃうんだ〜
追い詰められているはずなのに、なぜか一方的に痛めつけるのは逆
その攻防もきちんとドア越し
いわゆる『シャイニング』的な対峙
あのアイテムを最後に使うというのは思いきりが良い
ちょっと間延びした感もあるけど、後半の盛り上がりが良いなぁ

スリラーとして面白い
ドアノブがゆっくり動くようなホラー表現があって、邦画ホラーの先駆け的作品かも