ボブおじさん

理想郷のボブおじさんのレビュー・感想・評価

理想郷(2022年製作の映画)
4.1
リタイア後は〝海外に移住してのんびりと暮らしたい〟などと漠然と思っていたので他人事とは思えなかった😅

それにしても「ザ・ビースト」を「理想郷」にするとは、なんとも皮肉の効いた邦題である。

スペインで起きた実際の事件を基にした映画だが、根底にあるのは、〝田舎と都会の対立〟と〝村社会の閉鎖性〟だ。

このテーマは、国内外で何度も映画として描かれてきた。古くはサム・ペキンパーの名作「わらの犬」が有名だが、「イージーライダー」なども都会のよそ者と田舎のヒッピーの対立が描かれている。

日本でも瀬々敬久監督の「楽園」が、限界集落に戻った男が起こす惨劇を描いている。確かあの話(原作は吉田修一の「犯罪小説集」)も実際にあった事件が基になっていたと思う。

最近だとNetflixオリジナルドラマの「ガンニバル」も閉鎖感漂う田舎町に赴任した警察官一家と村人との対立が土台にある。

繰り返し描かれるということは、人間の思考には元々、自分達と異質なものを排除しようとする本能の様なものがあるのだろうか?

普段その気持ちが表に出ない様に抑えているのは、法律や倫理・理性があるからなのだろうが、その たが が外れたとき人は恐ろしく凶暴になる。

少し前に見た「福田村事件」もムラ社会のよそ者に対する警戒心・排他性が根底にあり、それが同調圧力・集団心理と掛け合わさった大惨事であったことを考えると、認めたくはないが国や時代を超えた〝人間の程度〟は、案外そんなところなのかもしれない。

第二の人生を歩もうと裕福なフランス人夫婦が、緑豊かなスペイン・ガリシア地方の小さな村に移住する。そこは自然に恵まれた〝理想郷〟のように思われた。しかし、村は慢性的な貧困問題を抱えており、苦しい生活を送っていた。そんな中、村に金銭的利益を生み出すプロジェクトをめぐり、村人と夫婦の意見が対立。敵対関係が激化していく……。

見ている間に、いつしかガリシアの村に引きずりこまれていた。田舎に限らず引け目を感じている者が抱く、劣等感からくる剥き出しの敵意。警察も全く役に立たず、夫婦は次第に孤立していく。

豊かな自然に囲まれた農村部で繰り広げられる緊張感漂う心理スリラー。たどり着くのは理想郷か、それとも地獄か?



〈余談ですが〉
夫役のドゥニ・メノーシェは、本作で第35回東京国際映画祭の最優秀主演男優賞を受賞した他、世界中の映画祭で絶賛を受けている。最近見た「悪なき殺人」でも印象的な役を演じていたが、個人的には「ジュリアン」の狂気に満ちた父親役が印象深い。

見た目で判断しては気の毒だが、その風貌から何となく行く先々でトラブルを起こしそう😅

本作でも一見トラブルに巻き込まれたように見えるが、火種を蒔いたのは彼の方かもしれないのだ。

移住者は、都会から田舎の学校にやって来た転校生によく似てる。すぐにその土地のやり方に馴染み友達を作る子もいれば、自分を曲げずにイジメに会う子もいる。

最初のボタンのかけ違いが命取りになることもある。どちらが〝いい悪いの問題〟ではなく、現実を受け入れ馴染んでいく柔軟性も必要なのだろう

〝郷に入れば郷に従え〟との諺もある。
一時の旅行ならいざ知らず、移住するともなれば、その土地の文化・風習・治安など、ありとあらゆることを十分に調べることは当然だ。

だが、それ以上に必要なのは、〝よそ様の家にお邪魔させていただく〟という謙虚な気持ちなのかもしれない。

勉強になりました😅