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秋日和 ニューデジタルリマスターのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

5.0
【小津安二郎カラーの空間美学】
一年に一度、小津安二郎を観たくなる時期が来る。今回は久々のカラー時代の小津安二郎ということで『秋日和』を観た。

亡き友の三輪の七回忌の場面から始まる。ふすまによって三層に分断された空間それぞれに位置する人物がさっと立ち上がり奥へと消えていく。木魚の音を繋ぎとして、寂しさを表現する「無」の空間を捉えていく。

登場人物は、短い言葉で淡々と対話する。男たちは未亡人とその娘に結婚をすすめるが一撃必殺の言葉でヌルっと縁談を回避していく。そこには人を傷つける鋭利なものはない。軽やかに結婚を回避していくのである。

今と違って独身は肩身が狭い。若いというだけで、未亡人というだけで結婚を勧められる。そのくどさが淡々とした対話と絶妙に長い上映時間に体現されており、生々しく映る。

しかし、映画はそういった旧来的な体制を声高らかに批判するのではなく、システマティックに動く人間の運動、様式美的空間の中での対話で薄ら批判してみせるのだ。これは生涯独身であった小津安二郎、社会の中で肩身が狭かったであろう彼が編み出した、様式美過ぎて息が詰まるような空間を通じて結婚観を表現する手法の賜物といえよう。
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