YasujiOshiba

情無用のジャンゴのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

情無用のジャンゴ(1966年製作の映画)
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日本版DVD。『殺しを呼ぶ卵』(1968)がリバイバル上映されるというので、ジュリオ・クエスティを振り返った。1967年の長編デビュー作だという。公開当時も大ヒット、その後もカルトになったと読んだのだけど、なるほどすごいわ。少なくともぼくのなかでは、ホドロフスキーの『エル・トポ』(1970)をぶっ飛ばしてしまった。

いわゆるマカロニ・ウエスタンというジャンルにピタリと収まりながら、ジャンルを超越してしまっている。ブルーレイの特典映像のインタビューでクエスティ監督が語る。ウエスタンを書かないかと言われて書いたら撮らしてもらえた。けれどもウエスタンなんて知らないから、パルチザンとして戦った経験を反映させたという。

だから、ここにあるのはウエスタンの仮面をつけたイタリア・レジスタンス(抵抗闘争)なのだけど、もっと正確にいうならば同じ市民(i civili)どうしが武器を手に戦う「内戦」(guerra civile)なのだ。

そこに登場するソロウ(Sorrow)と黒いシャツに身を包んだ手下たちは、メキシコ人の白いシャツとみごとな対称を示しながら、あのファシストの集団を彷彿とさせる、ホモソーシャルな集団のホモソーシャルな酒池肉林。ソロウはエルマーノ(英語版ではジャンゴなのね)(トーマス・ミラン)に囁く。「食べて、飲んで、自分の犠牲者を眺めること。これ以上に官能的なことがあるかい?」。

もしかするとヴィスコンティが『地獄に落ちた勇者たち』(1970)で描いた「長いナイフの夜」の先駆けと考えても良いのだろう。ヴィスコンティもだが、ここでもすべてを突き動かすのは「黄金」なのだ。しかもその黄金は、弾丸となって肉体の中に撃ち込まれる。血を流して倒れる肉体を、欲望にとらわれた市民(!)たちの手が、侵犯する。欲望を充足と、死を呼び込む血と呻き声。

もちろんそいつは悪いやつ。メキシコ人たちと共にアメリカ軍を襲い金を強奪しながら、分前をわたさずに白いメキシコ人たちを皆殺しにした連中の頭。そして、そんな悪いやつの肉体を、悪い奴のなのだから構わないと繰り返しながら、苦悶のなかに吊し上げたのが、イタリアのファシストであり、パルチザンたちではなかったのか。向こうが吊るせば、こちらも吊るす。肉体を蹂躙し、さらしものにすること。あらゆる内戦のなかで繰り返されてきたことだ。

その死から甦ったエルマーノは、だからこそ2人のネイティブに助け出される。二人はいう。「お前は死を見て帰ってきたのだから、大いなる群衆、われらが民、そしてわれらの頭のことを話してもらわなければならない。それらを話してもらうまで、われらはお前を追って、お前に使えることにしよう」。

なるほどエルマーノは生き返ったキリスト。ネイティブたちは使徒というわけだ。ただし、このキリストは黄金の銃弾で武装し、酒を喰らい、女とまぐわいながら、欲望の暴力の中をくぐりぬけることになる。

「苦悩の広場(あるいは墓場)」(Campo di Angoscia )とネイティブから呼ばれる町で、宿屋の主人テンプラー(ミロ・ケサダ)とハガーマン(フランシスコ・サンズ)が、賊から黄金を独り占めしたばかりに、黒シャツの手下をひきつれたソロウから狙われ、そのソロウをエルマーノ/ジャンゴが吹き飛ばせば、いかにも小市民然として善良ぶったふたりは、いがみ合い、騙し合い、ついには殺し合うにいたる。そんな欲望の暴力。

もちろんそこに美女(そして美男)がからむ。テンプラーには愛人のフローリー(マリルー・トーロ Marilù Tolo)がいて、ハガーマンには妻で狂人とされたエリザベス(パトリッツィア・ヴァルトゥッリ Patrizia Valturri)がいる。あのソロウものとには、テンプラーの美男の息子イヴァン(レイモンド・ラヴロック Raymond Lovelock)が連れてこられたではないか。

そしてラストも秀逸。火事の中で溶け出した黄金が、欲に目の眩んだ男を包み込んでゆくのだけれど、その黄金こそが人間を借りたて、魂を蝕み、肉体を断罪して破滅にいたらしむるというわけなのだ。

クエスティのこの映画にはバタイユの「眼球譚」の引用を言う人もいるんだけど、ようするに映画化の当時に読んでいた本を、あれやこれやごった煮にしているってわけ。それでいてバラバラにならず、なんだか異様なウェスタンとして成立しちゃってる。そこがすごい。

そうそう、音楽も忘れてはならない。イヴァン・ヴァンドール。じつに印象的な旋律。それからみごとなリズムでの実験的なカットを見せてくれたのは、フランコ・アルカッリで、別名はキム。クエスティ監督とは「ジュールとキム」と呼ばれる二人三脚の演出ぶり。

そのクエスティ、長編はたった三本。これがデビュー作、次が今度リヴァイバルされる『卵』(1969)、それから『Arcana』(1972)でこれが長編の最後。その後も活躍しているけれど、テレビだったり、実験的な短編だったり、あるは執筆だったりする。

その『Arcana』だけど、 YT に映画字幕付きであげられているので、そのうち見てみようと思う。
https://www.youtube.com/watch?v=fDDnBA76nkE
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