KnightsofOdessa

ライフのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ライフ(2022年製作の映画)
4.5
["神曲"と"メメント"の魔的融合?] 90点

大傑作。エミール・バイガジン長編五作目。今回はこれまでの静謐な語り口を捨てて、自己陶酔一歩手前くらいの硬いナレーションを入れてくる直接攻撃スタイルに転向しているが、『ハーモニー・レッスン』における物理攻撃と『The Wounded Angel』『ザ・リバー』における精神攻撃の融合と思えばバイガジンのスタイルなのかもしれない。主人公は借金まみれの青年アルマン。今は妊娠した内縁の妻と共に親戚?の家を間借りしており、お腹の中の子供を心配する妻にも家賃や光熱費が欲しい家主にも金をせびられ続けている。アルマンが新たな仕事として見つけたのが給料未払い系ブラック映像編集会社だった。パソコンの知識があったアルマンはすぐさま出世し、社内のサーバーを一手に扱うまでになるが、ある日操作ミスで会社の全データを削除してしまう。それは更なる地獄の幕開けに過ぎなかった。本作品はまるでゲームのように、主人公が死んだら次のステージを行くという奇妙な手法を取っている。次のステージでは死んだアルマンを助けた人物が、各々地獄要素を彼に叩き込んでいく。最初はソ連英雄を父親に持つ男に"プールを作る資金を作れ"と言われて金集めに奔走し、廃墟に住む博学で敬虔な男に"踊りこそ真の豊かさだ"と説かれ、整形を繰り返す女に"愛と感謝と信頼が重要だ"と説かれ、親しくなった看護婦の兄からは暴力を教え込まれ、アルマンを撃ったハンターからは"人生ホテル"という色欲の地獄に案内される。『神曲』かな?アルマンの人生は、死ぬ度に状況がリセットされたかのように、"俺には妊娠してる妻がいて…"とか"全ての休日が…"とか同じセリフを吐いてリスタートする。しかも、中盤以降のアルマンはどのタイミングでも別れた直後の妻を探すように行動するので(劇中でどれくらいの時間が経ったかは明確ではない)、なんだか『メメント』を思い出した。まぁアルマンは自分が死んでいることに自覚的ではないので、毎回初めてのように自分の人生を生き直しているわけで、その点では『メメント』ではないのだが。
適当に海外レビューを巡回していたら、各チャプターの導き手が映像を消された顧客だったというレビューを見つけたんだが、これマジ?全てをデジタルに記録する→それが消えることは人生が消えることと一緒で、アルマンは他人の記憶の中に閉じ込められていると言ってるんだが本当か?

同じカザフスタン出身のダルジャン・オミルバエフの作品を見ていると、気に入ったシーンは只管使い回しているのだが、本作品もカザフの監督らしくウザいくらい繰り返しが多い。もういいだろというくらい映像編集会社の顧客が同じ様なセリフでキレてくるし、もういいだろというくらい踊るシーンを入れるし、当たり屋のシーンなんか大して変わらない映像を三回も連続させる。中盤のキリスト教云々とか小児病棟のとことか鼻につく哲学パートもなんだかんだ短縮できると思うので、120分以内に出来たんじゃないかとも思うが、地獄めぐり映画にありがちな"上映時間すらギミック"というやつなので深くツッコむのも止めておこう。
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