パイルD3

マンティコア 怪物のパイルD3のネタバレレビュー・内容・結末

マンティコア 怪物(2022年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

《ネタバレ》
※内容について、自分なりの理解をいろいろ拾っているのでネタバレ設定しています

【マンティコア 怪物】

作品を一言で言うとすれば、自分で自分を食ってしまった怪物の悲劇だと思う

マンティコア=manticoreとは、ラテン語で体が獅子で頭が人面、尻尾が毒針という人間を食らう化物らしい。
これがストーリーのキーワードになっているが、怪物が暴れ回るわけではない。

あらゆる紹介文に主人公がとんでもない怪物を作り出すみたいな表記の使い回しを見かけたが、そんなホラーな話ではないし、こんな煽りに乗っかると拍子抜けになる。

作り出すのではなく、元々内側にいたものが歪んだ形で行動として表れる恐怖なので、新たに生み出すわけではない。
こんなビジネス用の惹句を真に受けると、魔除けのお札のように登場する一枚の絵の意味を誤解してしまう。

妄想と欲望が膨張し過ぎて誕生する淫らな性癖、その性癖はいつしか黙っていれば誰にもバレやしないと自分の中で闇の巣窟を作り上げる。
それがいかにおぞましく、危険なものであろうと、次第に自分では気づかなくなっていく。
罪悪意識が歪み始めて、やがて生まれる背中合わせの犯罪衝動…

そんな秘めたる隠し事や、性癖、嗜好は異常性の高低はあれども誰にでもあるのかも知れないが、この作品は突然訪れる妄想の始まりと結末を見せる。

正直、捉えにくさがくすぶる微妙な肌合いのドラマ


【マンティコア 怪物】

冒頭の不思議な映像には目を奪われたが、VRゴーグルを装着して、架空世界で怪物のキャラクターを創作しているゲームデザイナー(ナチョ•サンチェス)が主人公。
彼はあるゲーム会社とハウスデザイナー契約しているらしく、専用PCを貸し出されて業務管理されている。

その後、いきなり隣の家で火事が起こるという展開には驚かされるが、これは、もうひとりの主人公とも思える少年(アルバロ•サンス•ロドリゲス)と知り合うきっかけに過ぎない。
その後は一転して、出会った心やさしき女性(ゾーイ•ステイン)とのロマンスが静かに展開して行く…が、
主人公に思わぬ逆流が押し寄せてきて、穏当な姿が狂い始める…

弱者に対する“共感“ではなく、理解と寄り添いがひとつのテーマで、人間が極度の羞恥心と自己不信から行き着く行動の破綻を見せる。
現代だからこそのネット拡散の凶暴性と恐怖が、ある意味最大のマンティコアでもある。

主人公がゲームで創造するモンスターがいる。主人公が生まれ変わりたいものがある。そして少年が描く一枚の絵に描かれたものが線としてつながる筋立てはいい。

ただ、理解ということに限れば、登場する性嗜好に対して観る人それぞれがどう感じるかがすべてだと思う

先日試写会で観た「異人たち」と空気感が似ていた。
心の中のよどみみたいなものが漂い続けて、癒しを求めながら、どこか陰鬱な想いが残される


《雑記》

◉効果的に使われるピアノ曲は、3拍子16小節のショパンの短い有名曲プレリュード第7番、日本では太田胃酸のCMで広まりましたが、“イ長調“だから胃腸のCMに使われたという、そっち系ではよく使われるオヤジギャグみたいなのも有名ですね

◉「マジカル•ガール」に描かれた曲者的なおもしろさに魅かれていたので、そのカルロス•ベルムト監督の新作ということで初日に観に行った次第。
監督の日本オタク振りは相変わらずだったが、感触はチョッと違ったかなァ…

◉渋谷のシネクイントは久々に行ったが、センター街からロフトにかけて、先日の宮益坂の10倍くらいYOUは何しに日本へ系ビジターであふれていた。もはやマンティコアが街へ繰り出して来た状態。

よく通っていたカフェ•バー「人間関係」を見たくなり、スペイン坂の辺りをフラフラしてから帰った。
癒されるようなお香の香りのするインド人とすれ違ったが、何も起こらなかった…
当たり前じゃボケ 笑
パイルD3

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