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孔雀の嘆きのbackpackerのレビュー・感想・評価

孔雀の嘆き(2022年製作の映画)
3.0
第35回東京国際映画祭 鑑賞第13作『孔雀の嘆き』

代理母出産から赤ちゃん直販ビジネスへ……。

母の再婚、弟妹たちを養うため働く長男、心臓病の妹。これらは本作主人公の青年アミラの境遇であると同時に、スリランカ北東部の小さな村で生まれたサンジーワ・プシュパクマーラ監督自身の体験でもあります。
半生を描く自伝的作品に、一帯一路を進める中国の"債務の罠"の危険性や、ヨーロッパの富裕層への赤ん坊販売ビジネスと行政の汚職というアングラな領域等の、スリランカの社会問題を交えて紐解いていくストーリーテリングの技が光りました。

素晴らしかった点は、人間は多面的な存在であることを、当たり前として描いたこと。
容易な作劇を目指すならば、「こっちは善人、こいつは悪人」と明確なロールを付与した方が、比較的楽に展開できるはずです。
しかし、人には善悪二面性に限らず、多様な一面があります。人間の行動には何らかの理由があり、見る人の主観によっては善にも悪にも映るもの。一辺倒に描写しないとなると、その人のパーソナリティに関する情報量を増やさざるを得ません。その役割を一手に担ったのが、非合法赤ん坊販売組織の女経営者マラニ。
望まぬ妊娠をした女性たちを集め、子どもを外国人(ヨーロッパ系の金持ち白人達というのがなんとも……)に売りつけるマラニは、まさに悪の巨人といった印象。ミッドポイントでは悪漢経営者としてブチ切れ散らかしアミラを圧倒します。
しかし、その直後マラニの独白から彼女の過去が判明したことで、アミラも観客もマラニに対する見方が一転。この衝撃を推進力に、スリリングな"トラック検分"シーンから始まるクライマックスの怒涛の展開は、複線回収とはいえやはりハラハラドキドキさせられました。

描かれる複数の問題意識について、作品内では答えは明示されません。
決して絶対的正解がない問題ばかりだからこそ、見た人それぞれで考えていかなくてはならないということなのでしょう。
社会派ドラマの問題提起、しっかり受け止めていかなくてはなりませんね……。
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