シズヲ

ストールンプリンセス キーウの王女とルスランのシズヲのレビュー・感想・評価

3.5
ロシアによる侵攻の前年に上映されたウクライナ製のファンタジーアニメ。現地の童話をモチーフとしているらしく、役者の青年が悪の魔法使いから姫を救うべく冒険に出る物語である。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに日本の配給会社の社員が自腹で配給権を買い取り、クラファンで全国上映の資金を集めたという逸話が凄まじい。スタッフロールにはウクライナ大使館などの名前が乗っており、最後は平和を願う一文によって締め括られるなど、本作の国内上映に込められた想いを痛感させられる。

自発的なヒロイン像など多少の現代的要素はあるけど、ストーリー自体は極めて紋切り型のファンタジーである。主人公とヒロインの交流の圧倒的なテンポの良さは清々しい。常にアクションやユーモアを挟み込んで話を引っ張る努力はしているものの、王女救出という最終目標までの道のりを引き伸ばしていくような中盤以降の展開は正直退屈さが勝ってしまう。主人公であるルスランもキャラクターとしてはちと薄味なので、映画を引っ張るには些か力不足な印象。

CGアニメーションもディズニーやドリームワークス的なテンプレート感は否めないものの、クオリティー自体は非常に高いので画面の賑やかさは楽しい。前述した通りにアクションやユーモアは常に景気良く描かれるので、ファミリー向け映画としてのエンタメ性は一貫している(少々くどくなる瞬間もあるとはいえ)。エンディングの後日談的なイラストも可愛くて好き。紋切り型の世界観も“剣と魔法の物語”を突き詰めた王道ゆえの純粋さとして見れば飲み込めるレベルではある。

本作は主人公の魅力が物足りないのも相俟って、寧ろ勝ち気でお転婆なヒロインが活躍している場面の方が見てて楽しい。固定観念を痛快に否定しつつ王道との折衷も果たす王女ミラ、現代においてはそこまでパンチは無いものの十分に可愛らしい。身体能力の高さで相手を打ちのめす姿も含めて『シュレック』のフィオナ姫をちょっと思い出す。
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