Kaorin

春に散るのKaorinのレビュー・感想・評価

春に散る(2023年製作の映画)
4.3
8/25公開。原作は沢木耕太郎さんの朝日新聞連載小説。ボクシングの元チャンピオンが、同じくチャンプを夢見る若者に自分の最期の時間を賭ける…熱い男たちの一年の物語が、春から四季を追って描かれていきます。
とにかくラストの試合…おそらく映画史に残る壮絶な20分。闘う横浜流星さんと窪田正孝さん、見守る佐藤浩市さん凄すぎ…全世代に見て欲しい。このシーンだけでも必見です!

ここからネタバレ…見る前の方、興味ない方はスルーで🙏

浩市さん演じる仁さん、素晴らしかったです。流星さん演じる翔吾を見るまなざしがどんどん変わっていく。死を意識し、最期の時間を仲間たちと静かに暮らそうとしていた穏やかなまなざし、「今燃えてるこいつ捕まえないとダメなんだ」とたぎる思いをぶつけてくる翔吾に心揺さぶられ、再びボクシングの世界へ戻ろうと決めた時の光宿るまなざし。最後の試合、命を削って戦うリング上の翔吾を見上げるまなざしは、尊いものを前にした驚きと喜び、そして自分の見られなかった景色を見ているであろう翔吾へのリスペクトと憧れと。
複雑な全ての感情を、どうしてあんなに胸熱に表現できるのか…本当に素晴らしい役者さんだと思いました。

そしてとにかく流星さん。身体ごと役に捧げる役者さんであることは知っていましたが、今回は特に凄かった。まずあの体!ボディメイクアップアーティストの下里駿也氏が食事からトレーニングメニューまで全て監修されたそうです。ガリガリに痩せ細っていた前作の撮影後、短時間であそこまで仕上げること、並大抵のことではないと思います。さらに、最近続いていた、影のある内向的な青年の役からガラッと変わり、危なかっしくて一本気で我武者羅な若者をここまで表現し切るとは。流星さんは決してうまい役者さんとは思わないんです。でもなんなんだろう…その姿を見るだけでこちらを奮い立たせるような熱情。内側に自分でもどうしようもないくらいのマグマを抱え、外に出さないように秘めながら常に己れと戦ってるような…今回は表に向けて吠える役でしたが、内側のマグマが爆発したかのようで熱量半端なかった!
黒木翔吾は流星さんにしかできなかったと私は思います。

窪田さんもすごかった。人物背景が描かれてないのに、最初の登場シーンでバックボーンが透けて見えるような佇まい。人を小馬鹿にしたような振る舞いをするけれど、それは不安の裏返しでもあり、ボクシングに対しては真摯で熱いハートの持ち主であることが伝わってくる。何よりあの体のリアル。

二人のラストの世界戦。壮絶な20分。インタビューによればほんとにパンチ当たってるし11ラウンドはアドリブ…ケガの危険があるので、普通は決められた動きしかしないのですが、今回はボクシング指導の松浦さんが本物の試合のように本人たちに任せてみては、と。窪田さんと流星さんならやりとげてくれるという絶対的信頼があったから。日本映画においてはあり得ないことだそうです。

情緒的な音楽などかからず、呼吸の音、パンチの音、声援だけ。ひたすら闘う姿をドキュメンタリーチックに描く潔さ。それが観る側の緊張感も高めます。いつしか私は手を祈るみたいに握りしめてました。何度も込み上げるものがありました。斜め前のおじいさんは翔吾のパンチが決まったとき「よし!」と声を出してました。隣の女性は泣いていました。
この20分は伝説になる…ただただ凄いものを見た、そう思いました。
(あ、おじいさん、画面がスローになった時、パンチ当たった二人のすさまじい顔には笑ってました、多分すごすぎて)

全編通して松浦さんの佇まいがなんとも味わいありました。鶴太郎さんも代わる人のいない役者さん、哀川翔さんのラスト試合を見る目、すごかった。
山口智子さん、かっこいい。どうやったらあんな風に歳を重ねられるのかな。自然なセリフ、仁さんとの淡い想いの行き交い、あたたかい目線…ほんとに素敵でした。
橋本環奈さん、原作とは設定が違いましたが、一途に懸命に生きる役、合ってました。お弁当屋をやったりするのですが、なんとなく主役に還元しない立ち位置にいて、もったいないなって思いながら見てました。
坂井真紀さんの「負けるな、バカ!」は全母が泣く必見シーン。

ただ女性たちがもう少し物語を動かす原動力になったりしてたらな、と思いました。常に傍観者にしか過ぎず、それがリアルかもしれないけど、少し物足りなかったです。
そしてラストの翔吾。土手で仁さんの声が聞こえたような…まさか角膜移植して、仁さんと一体化?と思ったのですが…右目結局どうなったのかな…そして、再スタートだと結局スーツなんだと思ったり。さ末なことですみません。

宣伝の割に上映館数が少なく残念。あの20分を少しでも多くの人にスクリーンで見てほしいです!☺️
Kaorin

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