ぶみ

春に散るのぶみのレビュー・感想・評価

春に散る(2023年製作の映画)
3.0
二人は「一瞬」だけを生きると決めた ~ONE LAST BLOOM~

沢木耕太郎が上梓した同名小説を、瀬々敬久監督、佐藤浩市、横浜流星主演により映像化したドラマ。
故郷に帰ってきた元ボクサーと、彼の指導を受け、チャンピオンを目指すボクサーの姿を描く。
原作は未読。
40年ぶりに日本へ帰って来た元ボクサー・広岡仁一を佐藤、一度はボクシングをやめたが、再起を図るボクサー・黒木翔吾を横浜、広岡の姪を橋本環奈が演じているほか、坂東龍汰、片岡鶴太郎、哀川翔、窪田正孝、山口智子、松浦慎一郎、尚玄、奥野瑛太、坂井真紀、小澤征悦等が登場と、老若男女の錚々たるメンバーが勢揃い。
物語は、最初は指導することに乗り気ではなかった広岡と、チャンピオンを目指す翔吾の二人を中心に展開。
私はボクシングには殆ど興味がなく、試合を見ることもないのだが、本作品のボクシングシーンは素人目から見ても、かなりの迫力、臨場感で、一見の価値ありであるとともに、本作品の役作りのためにボクシングを始め、プロテストにも合格したとされる横浜の役者魂は流石の一言。
ただ、全体的には、かなり詰め込んだ印象であり、広岡には、ボクシングをやっていたかつての親友が、翔吾には主に母親が絡んでくるのだが、あまり登場人物の背景が語られないまま、時間の経過するにつれ人間関係が変わっていってしまっていたため、もう少し、人物やエピソードを絞り込んで、深く掘り下げていった方のが、より良かったのではなかろうか。
また、私の見間違いかもしれないが、翔吾がトレーニングに励む夏のシーンで、キャストが皆半袖でありながら、若干吐く息が白く見えていたのが残念であるとともに、撮影の苦労が偲ばれるところ。
加えて、片岡演じる元ボクサーのクルマが、1986年まで生産されていた二代目トヨタ・ライトエーストラックであり、何とも懐かしく、よく見つけてきたなと感じた次第。
ボクシングをベースとして、未来を充実させるため、刹那に生きる主人公等の生き方を、まざまざと見せつけられ、ボクシングをあまり知らなくとも人間ドラマを楽しめる仕上がりになっている反面、前述のように、もう少し焦点を絞ると、もっと激アツになったであろう惜しい一作。

人生に消しゴムはない。
ぶみ

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