ハル

春に散るのハルのレビュー・感想・評価

春に散る(2023年製作の映画)
3.9
横浜流星の身体能力をフルに活かせるガチボクシング作品ということで、下半期に最も期待していた作品。
加えて、佐藤浩市、窪田正孝が並び立ち、監督は“涙腺崩壊の名手”瀬々敬久。
堪らないラインナップだ。

先に結論から述べると…長所と短所が両極端で賛否両論激しそうな構成。
というのも、想定していたよりも佐藤浩市演じる仁の生き様がガッツリ描かれており、人間ドラマの要素がふんだんに盛り込まれている。
それもそのはずで、横浜流星の単独主演と勘違いしていたけど、ダブル主演との事。
ボクシングシーンだけではなく、物語性もフォーカスされている影響で、やや中途半端な側面が内在する。

ポンポン話は飛んでいくし、いきなり仁の姪の佳奈子(橋本環奈)と翔吾が付き合っていたり。
ざっくりした進め方が人によっては荒唐無稽に思えてしまうかも。
『ガラスジョー』など、ボクシングを知っていたらニヤリとするシーンやワードが織り込まれているのは格闘技ファンには嬉しいが、説明を省いてる分、知識のあるなしで面白みが変わってしまうスタイルの典型的な作品。
画一的な評価が難しいヤツ。
“作品に何を求めるか”で、感じ方が大きく異なる。

ただ、それを差し引いてもあまりあるボクシングシーンの魅力、クオリティーの絶対的な高さは必見。
自分自身、幼少期から社会人までバスケをプレーしてきた経験があり、命を燃やす瞬間の熱量を再び感じられた事に感謝の思いを抱く。
死すら過ぎる殴り合いの中で翔吾に芽生えた感情…それは「おもしれぇ!!」
打算や今後のプランは全て消え失せ、目の前にいるやつに勝ちたい、ただそれだけ。
命を天秤にかけても上回る凝縮された想い、全身全霊をかけて挑んだ者だけが到達できる研ぎ澄まされた感覚。
翔吾が横浜流星なのか、横浜流星が翔吾なのか、シンクロしていく姿に衝撃が走る。
タイトルマッチの入場シーンで魅せる身体も半端じゃない。
ファンの方はMust案件。

そんな形で人間ドラマに関しては尺不足で迷走気味だが、ボクシングシーンに置いては文句なしの出来映え。
何よりも、ボクシング監修についている松浦慎一郎さんやレフェリーの福地勇治さん、リングアナの冨樫光明さん、元世界チャンピオンの面々。
実際の関係者が多数参加しているため、リアリティの追求度は間違いなく格闘技映画の中でもトップクラスだ。

ちなみに欲を言えばさらにやってほしかったところ…ただ、役者陣はOKをだしてもこれ以上は倫理的にアウトなのだろう。
これは期待値が最上級だからこその欲張った感情。
試合では実際に相手を全力で殴れない反面、翔吾のミット打ちを見てもらえればどれほど重いパンチを放っているかがよく分かる。
極真元世界王者、かつ撮影後にはプロボクサーテストに合格した才能は紛れもなく邦画界の宝!
いずれ、芝居×身体能力の到達点に辿り着くであろう横浜流星の光り輝く才能に今後への期待は更に高まった。
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