こなつ

春に散るのこなつのレビュー・感想・評価

春に散る(2023年製作の映画)
4.0
沢木耕太郎の小説の映画化。ボクシングに命をかける2人の男の再起の物語。監督は「ラーゲリより愛をこめて」の瀬々敬久。佐藤浩市と横浜流星のダブル主演。

心震えた。佐藤浩市、横浜流星の役者魂を見せ付けられた熱い作品だった。

大体、ボクシングというか格闘技など、実際に観戦した事もなく、血だらけで痛そうで観ていてドキドキしてしまう。少し前までは決して好きなジャンルではなかった。「百円の恋」「初恋」「ケイコ、目を澄ませて」、、それでも幾つか観てきたせいなのだろう、いつの間にかボクシング用語が少しわかるようになっている自分に気がつき、楽しんでいる。「スパーリング」「ジャブ」「コンビネーション」「クロス」たかだかこのくらいなのだが。

物語は、不公平な判定で負けアメリカに渡り40年ぶりに帰国した元ボクサー広岡仁一(佐藤浩市)と同じ不公平な判定で負けて心が折れていたボクサー黒木翔吾(横浜流星)が出会い、世界チャンピオンを目指して再起をかける男の戦いが描かれている。

役にはストイックに向き合うことで知られている横浜流星。以前テレビドラマでダイバー役をするに当たり、スキューバダイビングのライセンスを取得したのだが、今回はボクシングのC級ライセンスを取得するという力の入れよう。確かに鍛え上げられた身体が全てを物語っている。その肉体美だけではなく、鋭い眼と闘志剥き出しの表情、やんちゃで荒々しい性格の中でも母親を気遣う優しさが見える翔吾を横浜流星が好演。

人生が終わりに近づき、何となく未練を残し、少しくたびれて背中が弱々しい哀愁漂う元ボクサーを佐藤浩市がとても魅力的に演じていて素晴らしい。歳を重ねた男の佇まいが美しく凛々しさすら感じた。

三羽ガラスと言われた元ボクサーの仲間を片岡鶴太郎と哀川翔がそれぞれ味のある演技で引き付ける。広岡のたった一人の肉親、姪の佳菜子の地味だけど存在感のある役どころがとても素敵な橋本環奈。27年ぶりにスクリーンに登場した山口智子の安定した演技。翔吾の母に坂井真紀。脇を固める俳優陣の素晴らしい演技にも見どころが満載だった。話題のボクシング映画にこの人ありと言われる松浦慎一郎さんも翔吾のトレイナーとして出演。

そして見事だったのが、横浜流星に劣らぬ鍛え上げた身体で、本物の試合を観ているような緊迫感を私達に見せ付けた世界チャンピオン中西利男役の窪田正孝。フワフワっとした優男のイメージの窪田だが、「初恋」の葛城レオを彷彿させる鍛え上げた肉体で黒木翔吾役の横浜流星と本気のファイトシーンを作り上げた。

ボクシング映画の王道だけど、それだけではない。人生を駆け抜ける男達の生き様が桜の散る儚さとリンクする心揺さぶられる作品だった。
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