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エリザベート 1878のHALのレビュー・感想・評価

エリザベート 1878(2022年製作の映画)
5.0
自分があまりに無知なので、「オーストリア皇妃エリザベート」について全く知らずに観て、これは本当に素晴らしい映画だと思った。女性を中心に置いて歴史を再構成し、その権力構造やミソジニーを浮かび上がらせる映画はいくつかあるが、今作はその最も優れた例ではないかと思う。『最後の決闘裁判』よりすごい作品だと思うし、『燃ゆる女の肖像』のようなパワーや美しさがある。何より、(自分の知識がなさすぎるせいもあるけど)エリザベートを理解することが最後までできず、それでいて力強く応援している自分がいた。これが俳優、そして映画そのものの力でなくてなんだろうか。

エリザベートは何度も入浴し、水と戯れ(死と戯れ)、コルセットを「もっと!」と叫んで締めさせる(フェンシングの胴着もきつそうだ)。この肉体を癒し、また抗い、そこから抜けだそうとするエリザベートの魂のようなものが、浮かび上がってくるようにみえて、これは歴史映画すら超越しているのではないかと思った。というより、小林秀雄じゃないけれど、歴史というのは常に語らなくてはそこにありえず、だからこそ「このエリザベート」に過去を超越した歴史を見るのではないかと思う。ラストは震え上がるような気持ちだった。あの浮遊感、そして落下していくエリザベートの身体と、これまででもっとも広大な水。『燃ゆる女の肖像』の冒頭の波飛沫も恐ろしかったが、もっと恐ろしいものにエリザベートが飛び込んでいく。ラストへ疾走していくエネルギーは今年ナンバーワン級ではないだろうか。
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