木蘭

エリザベート 1878の木蘭のレビュー・感想・評価

エリザベート 1878(2022年製作の映画)
2.5
 老化に怯える中身が空っぽで自分勝手な女が自分と周りを不幸にする擬似コスプレ映画。

 40歳を迎えた皇女シシィを主人公に、1987年の欧州を舞台にした豪華絢爛な時代劇・・・を期待すると、裏切られる。
 ポスターの中指を立てたシシィの姿から、『ミス・マルクス』みたいな歴史上の女性を、勝手な現代的視点で描いた女性映画かな・・・と嫌な予感はしていたが、結果は想像より酷かった。

 確かに豪華なコスチュームプレイだが、自室等の部屋以外はペンキのはげた古い家屋に調度品を並べて撮影されており、宮殿の廊下に至っては、まるでホテルの通用口。
 初めは荒れ果てた部屋や廊下は心象心理を表現しているのかな?と思ったが(実際そういうシーンもある)・・・並んだ調度品には電化製品があるし、壁にはスイッチやコンセントが付いている。田舎道には電柱が立ち、トラクターも走っている。明らかに現代の船や施設もロケに使われているありさま。タトゥーも機械彫り。
 ソファに腰掛けながら暖炉を囲んでいるシーンがあるが、あれは明らかに居間でテレビを眺めているイメージだよな・・・。
 ある種の舞台演劇的美術とも捉えられるが、こういう演出の意味は・・・アート映画っぽくして、低予算を誤魔化したのか?としか思えなかった。

 そもそも時代劇に現代的要素を詰め込んで描く映画に、ろくな作品は無いと思っている。
 時代劇を観る喜びは、今ここでは無い時代のビジュアルを楽しむか、今とは異なる世界の人々の人生(価値観)を体験するか、或いはその両方なのだと思う。ここには、その両方が無い。
 異なる時代と社会なのに、現代に通じる問題や物語が浮き上がってくるからこそ感動するのに・・・現代の問題を描きたかったら、現代劇をすれば良い。
 シシィの映画を撮る企画先行だったから、仕方ないのだろうけど・・・シシィの話にする必然性が無い物語だった。

 その物語も・・・息苦しいコルセットに締めつけられる様に・・・帝国民的アイドルとしての視線を受けながら自分の容姿の衰えに必死に抗い、帝室の慣習に縛られて苦しむ女性が、そこから自由になろうとする前向きな話・・・を作ろうとしたのだろうが、描き込みが足りないので、単にワガママな女が家族から呆れられて、臣下の人生を邪魔し、無責任に振る舞ったあげくに他人に全てを押しつけて逃避する話になっていた・・・。

 ジェンダーギャップに抗う様な物語を、アート映画風に撮れば受けるのかも知れないが、いい加減にしろ。
木蘭

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