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エリザベート 1878のumisodachiのレビュー・感想・評価

エリザベート 1878(2022年製作の映画)
4.4




皇妃エリザベート40歳の一年を描く。エリザベートを演じるのは、芯のあるヒロインを演じさせたら右に出る者はいないヴィッキー・クリープス。

40歳を迎えたエリザベートは、容姿の衰えに危機感を感じながら暮らしていた。毎日コルセットでウェストを締めあげ、それでもまだお飾りであることを求められ縛り付けられる日々にウンザリ。生来の自由奔放さを発揮しようとすると咎められ、旅に出ると自身の言動が目立ってしまいまた咎めれる。そんな日々を送る中で、彼女はある計画を思いつくのだが……。

ダイアナ妃の数日間を描いた『スペンサー』に似ているが、本作は数日ではなく1年を切り取っている。


現代がCorsage(コルセット)なのからも分かるように、エリザベートはギュウギュウに締め付けられていて、その不満で心も体も悲鳴を上げている。ひたすら美しいお飾りでいることをずっと求められてきたのに、40歳になった今はそれすら求められなくなりつつあり、かといって政治的なことに意見をすれば「余計なことを言うな」と押さえつけられてしまう。

そんな彼女は子どもたちにだけは愛情を注いでいるのだが、エリザベートのことを知っていれば子どもたちがゾフィーに教育されたことは了解済なはず。子どもたちはエリザベートの自由さについていけず、母はどんどん孤独を深めていく。

息子ルドルフ亡き後、喪服でヨーロッパ中を旅していて、スイスでアナーキストに殺されたのは事実だが、本作はそこにひとつの仮定を与えている。すべてを奪われ失意のうちに殺されたシシイではなく、すべてにおいて自分の意志を貫いた誇り高きシシイとしての姿。それは『スペンサー』でダイアナに新たな姿を与えようとした人々と同じ精神に違いない。

本作のエリザベートは、絶対にイニシアチブを明け渡さない。傍目には流され屈したように見えたとしても、常に自分が主導権を握り続ける。いわばこれは、ありとあらゆるものを奪われ続けた皇妃が、自分の人生だけは誰にも渡さないと誇り高く顎を上げる映画。天国にいるシシイに届いているといいな。

それにしても、軽く四か国語くらい操ってたよね。すごいなー。


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