ゴン吉

時雨の記のゴン吉のレビュー・感想・評価

時雨の記(1998年製作の映画)
3.9
熟年会社役員の禁断の恋を描いた作品。
吉永小百合と渡哲也がW主演、佐藤友美や林隆三らが共演。 

昭和63年。
明和建設の専務・壬生孝之助(渡哲也)は、かつて葬式で一度だけ会ったことがあり、その際に好意を抱いた堀川多江(吉永小百合)と20年ぶりにホテルのパーティ会場で偶然再開する。
未亡人の堀川は鎌倉で生け花教室をしながら一人暮らしをしていた。
壬生は自分に妻子がいるのにもかかわらず、堀川と再会した翌日から彼女に対して積極的にアプローチを繰り返すが…

「失楽園」(1997年)が大ヒットして不倫ブームが真っ最中の時代に公開された作品。
奈良の紅葉や吉野の桜など四季折々の美しい映像を織り込んで、不倫を美しく描こうとしています。
作品前半は壬生が、堀川の自宅や華道部の顧問を務める高校にまでも突然押しかけてきたり、嫌がる彼女を追いかけ回したあげく押し倒して強引に口付けするなど強姦まがいの行為まで行う。
壬生は「僕は欲しいものは何でもこうやって手に入れる」と豪語する。
さらに壬生は「紳士協定」と言いながら堀川の寝ている布団の横に、勝手に布団を敷いて寝る太々しさ。
大手会社役員ならではの自分勝手で傲慢な行為に、嫌悪感を抱かずにはいられない。
しかし未亡人であるがゆえに寂しさから堀川は壬生を受け入れていく。
壬生は妻子がいるのに不倫旅行を満喫し、仕事や家族を放り出した上、これまで尽くしてきた妻(佐藤友美)には「自分本位に 残りの人生を生きてみたいんだよ」と一方的に不倫宣言までする。
そんな壬生の行為をあざ笑うかのように昭和天皇が崩御し、昭和の時代は終わりを告げる。
平成や令和では考えられないような女性蔑視をロマンスとして描こうとしている昭和ならでは不倫作品。
壬生が好きな一首が、自由に生きた西行の歌というのも自分本位の壬生らしい。
「吉野山こぞのしおりの道かへてまだ見ぬ方の花をたづねむ」

本作品の素直な感想は以上の通りですが、この作品には吉永小百合の渡哲也への熱い思いが感じられる。
本作品は吉永小百合の要望で映画化されている。
吉永小百合は若い頃、渡哲也と恋に落ち、周囲の反対により結婚を断念した過去がある。
本作品と同様に、吉永小百合が渡哲也との結婚をあきらめ、他の男と結婚して20余年後に公開されているのが感慨深い。  

2023.1 BS12で鑑賞
ゴン吉

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