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時雨の記のkojikojiのレビュー・感想・評価

時雨の記(1998年製作の映画)
3.8
 吉永小百合のたっての希望で実現した30年ぶりの渡哲也との共演。二人は結婚直前までいきながら、周囲の反対にあい別れたことは伝説になっている。この映画の共演は吉永小百合のかつての渡に対する思いが突き動かしたラブレター言われる。
 観客はそんなこともあったかもしれないとの思いを重ねて観ると、この映画、それにこの後の「長崎ぶらぶら節」に関してはプラスになるかもしれない。
 
 不倫の純愛映画。
 こんなジャンルがあるかどうか知らないが、吉永小百合ならではの映画と言えるだろう。
 当時、「しぐれ族」なる流行語まで生んで大ベストセラーとなった芥川賞作家中里恒子の小説の映画化だ。

 どこまでも吉永小百合を愛でる。
 こんな女性は絶対いない、完璧な女性だ。しかも完全な男目線で。
強いて言えば、「7年目の浮気」のマリリン・モンローを180度ひっくり返したような感じの女性と言えようか。
それにしても吉永小百合の着物姿は美しい。

 コテコテのメロメロメロドラマ。今どきこんな映画はないだろう。しかも肉体関係はない。心と心で結ばれるというのだから。ユートピアだ。

この事に関して、澤井監督は「昭和最後のロマネスク」と言っている。昭和ならあり得るというのだ。
映画の中で渡が昭和という時代を語るシーンがある。これを意識した演出だったのかもしれない。
 
#1405 2023年 439本目
1998年 

監督:澤井信一郎
脚本:伊藤亮二、澤井信一郎
原作:中里恒子
音楽:久石譲
撮影:木村大作

 大手建設会社の専務・壬生(渡哲也)は、20年前に心に留めた女性・堀川多江(吉永小百合)に偶然再会する。
壬生は心をときめかせ、運命の出会いと思う。翌日、多江が住む。鎌倉を訪ねる。
多江は夫を亡くし華道教授をしながらひっそりと暮らしていた。
多江は、突然訪ねてきた壬生に戸惑いながらも、少年のようなひたむきさに惹かれてゆく。
 二人は世俗の価値観を離れて、西行や定家のように隠れ住みたいと願うようになるのだが…

 澤井監督は不倫という、ある種暗くなるテーマを覆い隠すため、渡哲也にとにかく爽やかに演じさせようと苦労しているのがわかる。渡哲也も監督のそんな思いを十分理解しているのか、青春映画のような演技をしている。
違和感がなきにしもあらずだが、ギリギリのところでセーフとしておこう。

 久しぶりの壬生の親友役林隆三が懐かしい。いい俳優だった。彼はほんとにいい声をしている。

と書いて、しばらく時間を置いたら、案外壬生の気持ちが心に響いていた。残り少ない人生を自分の思うように生きたい。メロメロメロドラマで片付けられないものがある。
壬生の気持ちがわかる。どこがでそう思っている。
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