くまちゃん

ほの蒼き瞳のくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

ほの蒼き瞳(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

ルイス・ベイヤードの「陸軍士官学校の死」を原作としたミステリー。
監督スコット・クーパーと主演クリスチャン・ベールは今作が3度目のタッグとなる。

1830年。ニューヨーク州にある陸軍士官学校内で士官候補生が亡くなった。
さらにその遺体からは心臓が抜き取られていたという。
学校の幹部たちは元刑事、オーガスタス・ランドーへ事件の調査を依頼する。
ランドーはそこで出会った士官候補生エドガー・アラン・ポーに協力を仰ぐ。

ランドーは聞き込み調査と物的証拠、卓越した推理力で事件の真相に迫る。
しかし、その推論を構築するには運や思い込み、偶然など不確定要素の補助によるものも大きく、なぜそこへたどり着いたのか具体的な説明がなされない部分も多い。
さらに、悪魔崇拝者と関連付け容疑者死亡の終幕はなんとも消化不良な結末である。
そう思った時点で我々観客は欺かれている。ランドーによって。
その深淵に潜む真実。
ランドーが家族を語らない意味。決して忘れたい過去だけが理由ではなく、それはミステリーを成立させ、ミスリードを促すための必要な謎。

調査にあれほど積極的だったポーが中盤恋の道化と化す。
クリクリと潤んだ瞳は謎ではなく、美しい旋律を奏でる想い人へと釘付けになる。
さらに自身が心臓を抉られそうになる始末。

"生と死の境界はぼやけた影のように曖昧だ"
"どこまでが生で、どこからが死かわからない"

今作冒頭に表示された言葉はポーの短編「早すぎた埋葬」に記された一節である。

ランドーは妻の死、娘の悲劇によって失意の底におり、生と死の間をただただ虚無的に揺曳していた。
いや、復讐に手を染めたランドーはもはや人間として死んでいるのかもしれない。
「早すぎた埋葬」は仮死状態等で誤診され埋葬、つまり生き埋めにされる恐怖をテーマにしている。
エドガーは唯一真実へ辿り着いた。
愛するものを眼前で失い、尊敬するランドーには裏切られた形となる。
それでも真相を明らかにせんと前進する彼の姿はまさに生者そのもの。ランドーとは対になる。
エドガーはランドーが真犯人とする証拠を蝋燭の火にかける。
エドガーは選択を与えたのだ。
このまま生ける屍と化すか、贖罪の中で人間らしく振る舞うか。
ランドーは死ぬにはまだ早い。
それがランドーの涙に託した、エドガーの願いなのだろう。
くまちゃん

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