かじドゥンドゥン

梟ーフクロウーのかじドゥンドゥンのレビュー・感想・評価

梟ーフクロウー(2022年製作の映画)
3.2
1640年代の朝鮮王朝が舞台。

心臓を患う幼い弟と二人で貧しい生活を送っている盲目の鍼師が、その才能を見込まれて、王宮内の医院に登用される。彼は、実は暗いところではある程度目が見えるのだが、そのことを黙ったまま、完全なる盲人として、宮廷内の要人に鍼を打つようになり、信頼を得る。そして、長らく中国・清の人質になっていた世子(皇太子)の帰還とともに、宮廷では、反中的な王党派と、親中的な皇太子・宰相派とに分裂。王が若い後妻に唆されて我が子を平然と毒殺するような陰惨な政争が勃発する。侍医による皇太子毒殺の重大な現場に居合わせてしまった盲人鍼師は、はじめ、「卑しい者は何事も見て見ぬしなければ生き延びていけない」というモットーに従って、沈黙を決め込むが、やがて、むしろ自分が生きのびるためには真実を語らざるを得ないと悟り、王の不正義を曝いて、皇太子派に加担する。

結局、皇太子とその妻は惨殺され、息子(王の孫)は島流しになって、無力化した老王とあざとい宰相との結託した新政権が生れるが、件の鍼師は処刑執行人の恩情によりひそかに死を免れ、田舎でひっそりと鍼を打ち続ける。そして数年後、すっかり被害妄想にとりつかれて発狂した王の宮廷に呼ばれて鍼を打ち、その安楽死を委ねられたのは、皮肉にもこの鍼師であった。

飽くまでも自分は一介の鍼師に過ぎないという態度は一貫して変わらず、それゆえ、政争の中で自分がどれほど重要な役割を果たそうとも、彼は国家の命運や大義について何も言及しない。一人待つ弟のもとに無事戻って、彼の病気を治してやらなければという想いあるのみ。こういう、分をわきまえた英雄像(あるいは非英雄)は珍しいのではないだろうか。