秀ポン

猿の惑星/キングダムの秀ポンのレビュー・感想・評価

猿の惑星/キングダム(2024年製作の映画)
4.0
試写会で見た。人生初の試写会で、それだけで良い体験だった。
猿の惑星シリーズはこれまで一作も見たことがない。

面白かった!新シリーズの一作目としてかなり良いスタートを切ったんじゃないか?
一応ノアと国王プロキシマスの猿vs猿の対決が今作の主題なんだけど、シリーズ内における今作の役割は猿と人間の対立構造のセットアップで、そのどちらも(特に後者は)しっかりやれていた。
中盤の天文台やラストシーンでの空を見上げるノアとノヴァの2人の対比がかなり良い。

猿のノアと人間のノヴァは互いにこの星を支配する(そしてしていた)種として争うことになる運命にある。少なくともノヴァはそう考えている。だから彼女は中盤までノア達に自分の目的を明さず、序盤においてはノア達の前で喋ることすらしなかった。

しかし、ノアにはノヴァの持っている種の視点はない。
ノアの村には猿達を今の立場に押し上げたシーザーの伝説が残っていない。だからノアが持っているのは種ではなく、それよりも狭い部族の視点だけだ。
2人がなぜ本作の間は一時的に協力関係を結べていたのかといえば、それはノアには種の視点がなかったからだ。ノアにとって(人間に対置される)猿という括りはあまり意味を持たず、部族という括りだけが重要だ。
なのでノアにとって部族に関係のないノヴァは利害の関係外にいるので連帯することができる。
ノヴァの望みである人類の再興が成就した場合、それが具体的にどんな事態を引き起こすのかについてノアの想像力は働かない。

だがノアは王国を作ろうとしたプロキシマスや、シェルター内で見つけた絵本から種の視点を獲得した。それによって2人ははっきりと敵対関係に至り、これ以上一緒にいることができなくなった。
ここでの、絵本を見つけたノア達の後ろに斧を持ったノヴァが現れるシーンがめちゃくちゃ怖くて良かった。あれ、こいつ実はめちゃくちゃヤバいやつなんじゃ?って感じ。
さらに言うとここのシーンの前にノアは太陽系の模型に興味を示していて、これは彼が種の視点を獲得する前振りになっている。部族を取り戻すという局所的な戦いと違って、星の支配者を決める争いの戦場はもちろんこの星全体に広がるはずだからだ。種の視点はすなわち宇宙から地球を見る視点と重なる。

そして村の若者とエコーの娘は、最後、猿と人間として向かい合うことになる。
話し合いの後、2人は別れるんだけど、ここで話し合いが成立したのは相手が敬意を払うべき存在であると互いに思っていたからで、その敬意はどこから来たのかといえば、個人的には望遠鏡を覗き込んだシーンなんじゃないかと思った。
ノアが望遠鏡を覗き込むノヴァを見て知性を感じたとき、それと同時に、さっき星を見たときに感じた言いようのない気持ちを相手も感じているように思えたんじゃないかなと思う。そしてそれはノヴァの方も同じだ。

普通に考えたら地球の支配者につくのはどちらか一種だけで、(過去作とのつながりも良くわからないけど)一作目の設定を踏まえたら争いの勝者は猿になるんだろうなと思ってはいるんだけど、もし一時的にではあれ違う結末が成立するのだとすれば、それはこの望遠鏡のシーンで生まれかけた共感によるんだろうなと思う。

──その他、細かな感想。

・吹き替え声優達が登壇して気に入ったセリフとかを喋っていたのに、その後に上映された本編は字幕版だったのがかなり面白かった。

・主人公の旅立ちまでの展開が良かった。父が痛めつけられるのを見ていることしかできないシーンとか泣きそうになった。悲しすぎる。

・ジャングルと化したビル街とか、文明が朽ちて自然に飲み込まれた世界が凄いワクワクして良かった。
主人公達の村の塔のような住居は鉄塔を利用したものなんだけど、焼き落とされたときにそれが分かるようになるのも良い。ここら辺が全部、最後の話し合いの中での「全部人間のものだ」「じゃあ俺たち猿に残されたものはなんなんだ!?」っていうやりとりに繋がってくる。それも含めてめちゃくちゃ良い。
ボロボロになったアンテナが動き出すラストも壮観。(そしてその壮観さは必ずしもノアの物語にとって喜ばしいものではないというのも面白い)

・主人公はめっちゃかっこ良かった。応援したくなる。
鷹を扱う部族って時点で超かっこいい。
でもプロキシマスとのラストバトルはそんなにかっこよくなかった。
鷹を使って勝つよりも、鷹とともに戦ってほしかった。鷹がくちばしで攻撃して、それに対処しようとしたプロキシマスを逆サイドからノアがパンチ!みたいな。

・獣の一種に堕ちた無知性人類の姿が良かった。シマウマとかに混じって水辺で水を飲んでいる様子が、ダーウィンが来たで映されるサバンナの一幕って感じで、それが哀愁を誘うし愉快だしとても良い。

・あんな大規模な工事をしていたのに、ちょっと裏側の崖を調べるくらいのこともしていなかったプロキシマスは間抜けすぎない?とか、気になる部分もある。全体的にプロキシマスにはあんまり魅力が無い。

・前作から遥かな時が流れ、前作で世界を救った主人公が既に忘れ去られている、もしくは伝承の中の存在になっているような世界を描いた続編。
そういう立ち位置の続編だと気づいたときに「これトップをねらえ2!ってことだ!」とかなりテンションが上がった。
時を経ることで前作の主人公であるシーザーの教えが歪んで伝わってしまっているという描写もかなりテンションがあがる。
「シーザーのために」という言葉の元に蛮行が行われるシーンとか、ゾクゾクして良かった。

・「波に攫われる」
オランウータンや、クライマックスの堤防破壊など、波にさらわれる描写が多かった。
これは前シリーズを見ていたらなんか意味がわかったりするんだろうか。
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