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猿の惑星/キングダムのmoviefrogのレビュー・感想・評価

猿の惑星/キングダム(2024年製作の映画)
3.8
カリスマ・エイプ、シーザーの死から300年後の世界。

シーザーの歴史が全く伝承されず、独自の鷹匠文化を形成している部族がある一方で、シーザー伝説を神話的に利用して人身掌握する独裁者が治める部族もある。

興味深いのは、エイプは他の生き物を「使役」すること。片や鳥を飼い慣らし、片や同族を奴隷化。類人猿の文化度が上がると、必然的に「動物の権利」(アニマルライツ)問題が発生する、ということをこの作品の制作者はかなり意図的に描いている。以前の「猿の惑星」シリーズは人種問題が描かれたが、今シリーズはそこが動物の権利問題に置き換えられている。

「他者を使役する」性質こそが、エイプとかつての人類の共通の特性で、シーザーは結局その悪い面を解決できなかった。

すっかり退化し、文明や言語を失った人類・エコーは、かつてエイプを動物園で展示し、動物実験に利用してきた。それと同じ構造の萌芽が、平和なエイプの部族の中にさえ見えはじめている。鷹巣の卵を盗んで自分のものとする、という通過儀礼文化が描かれるが、母鷹にしてみればとんでもない話で、そこは決して誉められた話ではない。

獲得した知能をどう活かせば幸せなのか。おそらく、鷹との使役関係が絶妙で穏やかなイーグル族の暮らしは一応のユートピアなのだろう。

しかし、これから先、彼らの暮らしは激変してしまうだろう。わずかに生き残った人間達は他者の使役をやめないことが示唆されているし、強欲で醜く愚かな者達と、善良なエイプとは平和的共存はできないからだ。

今後連作されるであろう「猿の惑星」新シリーズで、無垢な主人公ノアは、シーザーのような修羅の道を進むだろう。本当に可哀想。そしてこれから先は、人類だけでなく、エイプとの三つ巴の闘いが待っているだろう。

この物語、最終的には1968年版「猿の惑星」の、2673年以降の世界に繋がると思う。時系列的に。せめてフィクションの世界ぐらいは、愚かな者達との空しい闘いの先に少しでも救いがあればいいのだけれど。

ストーリー以外に関しては、今作のエンドクレジットにみられる人海戦術の凄まじさには心底圧倒された。膨大な作業量に対して優秀な人々が能力をそれぞれに持ち寄り、ここまでの完成度の作品を作ったことが本当に素晴らしい。

昔であったら表現できなかったありとあらゆることが、ごく当たり前のように実現されている。
それこそ、あらゆる物言えぬ動物達を生理的に痛め付けることなく、映像技術の向上によって激しいアクションを創造しているのも感動的だし、エイプに豊かな感情表現と個性を生み出している演技演出も圧巻。音楽も美しい。

こんなことができる人類なのに、別の場所では殺し合いをやめることができないでいる。
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