囚人13号

《ジャンヌ・ディエルマン》をめぐっての囚人13号のレビュー・感想・評価

3.8
シネマテークのパイプはアケルマン特集、殊更『ジャンヌ・ディエルマン…』とその直後に4月時点ではプログラムに組み込まれていなかっただけにありえない事ではない。

映画が傑作であるほどその裏側は覗いてはならないような雰囲気があり、案の定デルフィーヌ・セイリグのパワハラぶりが露呈されていたがこれは完全にアケルマンの復讐行為であったと思う。
しっかり彼女の死後に編集/公開している優しさこそ評価されるべきであるが、まだ学生のような若い女性が高名な女優と対等に渡り合っている様子から一瞬で仕事を終えて手放すためドラマを誘発するはずのないコップ、牛乳、生肉といった諸要素を手にする順序/目線まで日常アクション全てを演出してみせる若監督と、それら一つ一つの意義を求めて毎度反撥する中年女優との衝突が克明に刻まれている。

しかし編集のせいかセイリグは残念ながら全てにおいて間違っている(ようにしか見えない)、赤ん坊のように次の所作を手取り足取り教えてもらいながら自らの演技リズムと倫理観に見合った演出を要求する俗物の塊が終盤に訳の分からないフェミニズム論を語り、スタッフに感動を強要する姿によって作品自体の評価は揺るぐどころかこの女を完全にフィルム空間に定着させてしまったアケルマンの説話性の増強に比例して、セイリグの女優イメージが大幅に低下していく。
白黒であるからこそ例によって無表情のセイリグが牛乳をコップに注ぐ様子を正面から捉えたカメラに紛れもない歴史の誕生を予見し、少なくとも一分間持続するという沈黙にゴダール『はなればなれに』を想起させられドキリとする。改めて『ジャンヌ・ディエルマン』と向き合いたいと思った、ただしデルフィーヌ・セイリグではなく紛れもないシャンタル・アケルマンの映画として。
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