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《ジャンヌ・ディエルマン》をめぐってのtntnのレビュー・感想・評価

4.6
決して手放しの感動では終わらせてくれないが、物を作ること、物を考えることは、自分の置かれた構造を如何に変えていくのかを表明することなのだと、『ジャンヌ・ディエルマン』の製作過程そのものが教えてくれるみたいで、本当に素晴らしいドキュメンタリーだと思った。
キッチンでカツを作る場面や、ベッドメイキングをする場面において、アケルマンやゼイリグや他のスタッフ達が真剣に議論を重ねる姿からは、古典ハリウッド映画の「説話」とやらから排除されてきた「取るに足らない」場面に、リアリティを与えて描こうとすることそのものが、力強いメッセージとなることをひしひしと感じる。
対話を重ねる内に、何度かアケルマンとゼイリグが全く同じ姿勢で同一画面に収まる瞬間が訪れる。見てきたことも感じていることもかなり違う二人の意思が、ほんの少しだけでもシンクロしたようで奇跡みたいな場面だった。クライマックスを、その綿密なリハーサル(≒議論)と撮影まで映していたのも凄い。
中盤で、カメラが初めて本番テイクを撮影している様を映すと、カメラの後や横にいる女性スタッフ達が見える。全員がどういう人かが説明されるわけではないけれど、それは間違いなく「Male Gazeではない何か」だった。
デルフィーヌ・ゼイリグの語るフェミニズム(第二波とどの程度重なっていたのか分からなくて歯痒い)は、例えばバトラーの「仮装する女性性」を彷彿させたりするぐらいクリティカルで、この時代の映画業界でこんなにも構造的不均衡を言語化していた人がいたのだと思うと同時に、ラストでゼイリグと女性スタッフ達の間で考えがすれ違ったままだったのは重い。「映画製作状況がこれから良くなっていくのか」という話題が、50年前にも提起されていたのも、考えれば当たり前だし、いまだにその議論で止まっている現状が本当にダメすぎる。
でも「10年後」には、ゼイリグとアケルマンは、『ゴールデン・エイティーズ』で再会している。
単純に、「メイキング・オブ・ジャンヌ・ディエルマン」としても面白くて、撮影している最中にサイレンが鳴ってしまって撮り直す場面とか、「こんな自主映画みたいな状況があったのか」と思った。後セットで撮っている箇所が多かったのも意外だし納得。
『ジャンヌ・ディエルマン』という厳密で勇敢な映画が、こんなにも真剣に作られていた事実に、どうしても感動してしまう。素晴らしかった。
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