ノラネコの呑んで観るシネマ

あしたの少女のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

あしたの少女(2022年製作の映画)
4.8
驚くべき傑作。
2017年に起こった、職業高校の実習生が自殺した痛ましい事件を、イ・チャンドン門下生のチョン・ジュリ監督が描いた作品。
デビュー作の「私の少女」から、あらゆる面で進化していて全く目が離せない。
映画の前半は、キム・シウン演じるダンス好きの快活な高校生ソヒが、学校から斡旋されてある企業のコールセンターの実習生となり、やがて自殺するまでを描く。
ここまではほぼノンフィクション。
後半になると、ペ・ドゥナ演じる刑事が登場し、なぜソヒは死を選ばねばならなかったのかを捜査してゆく。
この後半部分はフィクションなのだが、ドゥナ刑事によって浮かび上がるのは、強固で残酷な搾取のヒエラルキーだ。
韓国の職業高校は、10月までに次年度の卒業生を実習生として企業へと送り出す、職業斡旋所の様な機能を持つ。
しかし、ある種の企業にとっては、実習生は安くこき使える奴隷の様なもの。
しかも日常的にクレーマーに罵声を浴びせられるコールセンターの仕事は、心を削られるのだ。
いきなり社会の中に放り出され、誰にも相談できない若者は、どんどん消耗してゆく。
企業も学校も教育庁も、上位存在から課されるノルマという数字に支配されて、働く者は駒でしかない。
韓国特有の事情もあるが、ここに描かれている非人間的な搾取の構造は、多くの部分が日本にも当てはまるもの。
前半の四方がキチキチに詰まり、あえて杓子定規さを感じさせる前半のフレーミングと編集が、追い込まれてゆく主人公の閉塞感を加速させる。
原題は「다음 소희(次のソヒ)」。
このままの状況が続けば、ソヒの様に死を選ぶ若者が次々と出てきてしまうという、静かな怒りと危機感に満ちたタイトル。
監督の前作と関連付けたかったのかも知れないが、邦題も作品の趣旨を尊重したものにして欲しかった。
ブログ記事:
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