こなつ

あしたの少女のこなつのレビュー・感想・評価

あしたの少女(2022年製作の映画)
4.0
2017年韓国全州(チョンジュ)で起きた実際の事件をモチーフに、「私の少女」でデビューしたチョン・ジュリ監督の8年ぶりの作品。キム・シウン、ぺ・ドゥナ主演の社会派ドラマ。

第42回アシアン国際映画祭で3冠、第26回ファンタジア国際映画祭で2冠、第23回東京フィルメックスでは審査員特別賞を受賞している。

ダンスが好きな普通の女子高校生ソヒ(キム・シウン)が、大手通信会社のコールセンターの実習生として働き始め、過酷な労働環境に置かれて心身共に憔悴し自死へと追い込まれて行く姿がリアルに描かれている。単なる自死と片付けられるはずの事件を、警察本庁から移動してきた刑事ユジン(ぺ・ドュナ)が真相を追及するに従って、韓国の社会システムの歪みが浮き彫りになっていきユジンは捜査拡大のため勇敢に戦う。

本作は2部構成になっている。前半はソヒを中心に実際の事件が忠実に再現されている。刑事ユジンが登場する後半は、韓国の労働問題を追及してきたジャーナリスト達の証言をもとに創作し、ユジンという女性刑事のキャラクターを構築していた。

ソヒは、元々専攻が愛玩動物学科で全く関係のない業務の会社に実習に行かされるのだが、就業率を重視する学校側は適性など無視し、貧しい家庭の事情もあり、責任感の強いソヒは従うしかなかった。しかし、会社は従業員同士の競争を煽り、ノルマが達成出来ないと残業の日々、契約書で保証された成果給を支払おうともしない無謀な労働環境。明るく快活だったソヒが、精神的に追い込まれて変化していく姿を新人のキム・シウンが好演。

後半で、ソヒの足取りを追体験していく刑事ユジンは、再捜査に批判的な上司の言葉など無視、コールセンターに乗り込み、消耗品のように実習生をこき使う実態、実習生の労働搾取の疑惑や職務規定違反を次々に暴いていく。「秘密の森」「ベービー・ブローカー」と女性刑事役の多いぺ・ドゥナだが、彼女の刑事としての佇まいがかっこいい。孤独感を滲ませながら、落ち着いた物腰、淡々と進める捜査、勝手な言い分を捲し立てる関係者を一喝。今までの刑事役の中でも一段と刑事らしかった。さすが演技派と思わせる。

SOSを出していたソヒを救えなかった人々。彼らもまた生きることに必死で、誰一人ソヒの言葉に耳を傾けようとしなかった。決して他人事ではない。日本でも社会の未来を担う若者達を守っていけているのか、ソチが最後に一人で立ち寄った店に射し込んだ一筋の光、それは何を意味するのか、心に残った。実話ベースということもあり、とても見応えのある作品だった。
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