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あしたの少女のオロゴンのレビュー・感想・評価

あしたの少女(2022年製作の映画)
4.7
素晴らしい作品、面白いです。

映画はダンスの練習場で一人目の主人公が鏡の前でダンスし、その映像を自分で見ることから始まりますが、中盤にその場所で二人の主人公がすれ違います。そのときは一人目の主人公は見る人であり、二人目の主人公が踊る後ろ姿を見ます。一瞬鏡越しに顔が見えかけても互いの視線がぶつかることはなく、一人目の主人公は部屋を後にし、地下から地上への階段越しに空から降ってくる雪を見ます。雪は美しいのですが、翌朝雪の積もった車の中でセンター長が自殺しているのが見つかります。降る雪を見ることと自殺することは反復され、一人目の主人公は雪を見て、貯水池の方に歩いていって画面から消えます。貯水池で反転するように主人公は二人目にバトンタッチし、一人目の主人公の労働環境や足取りを追うのですが、最後にたどり着くのは彼女がダンスする映像を見ることです。

このようにして人物の身体、見る/見られること、環境やモチーフが巧みに構成されることで語りが具体として立ち上がっていて、大変素晴らしい映画です。

また、ディティールにおいても派手な仕掛けや演出があるわけではなく手持ちも多用してサラッと撮っているようには見えるのですが、何気なく通す車や通行人の動き、あるいは編集のリズム、そういったものに時間と運動のセンスを感じ、じっと見ていられる映画だなと思います。

それでいて、自殺した主人公の遺体と両親が向き合う時間は引きの絵でぐうっと長く回したり、貯水池の近くの店で二人目の主人公の足元に入ってくる光や最後のペ・ドゥナの顔と光を耽美的に見せたり、ここぞというところでショットで決める瞬間もあります。

最後に内容においては、複雑化した現代の経済社会で数字によってのみ物事を動かそうとすることで人間の心身はズタズタに切り裂かれるという問題が鮮烈に描かれています。
そんな社会はクソだと、私達人間個人は自由なんだと、短気に力強く宣言してくれるのがこの映画の主人公なのですが、そんな彼女の尊い生を奪うこの社会システムの不条理に強い憤りを覚えます。
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