コマミー

ソウルに帰るのコマミーのレビュー・感想・評価

ソウルに帰る(2022年製作の映画)
4.0
【繋がりがほしいけど】



本作は実に主人公の"心情"について繊細に描き、それは"海外に養子縁組"に出された経験を持つ人にとって特別な作品になったと思う。
本作は監督の"ダヴィ・シュー"の経験という訳ではないが、監督の"知人の体験"を元に物語が作られている。本作で起こった事は現実に起きており、主人公"フレディ"の心情というのがリアルである事が分かる。

フレディは"韓国"で生まれ、とある事情でフランスに養子縁組に出されていた。フレディは本来日本に旅行に行く予定だったが、台風の影響で断念し、ふと韓国を訪れる。そこでふと出会ったフランス語が堪能な"テナ"と出会い、打ち解け、テナと一緒に"実の両親"を探す事になるが…。

訪れる予定のなかったにも関わらず、韓国に降り立ち、自分の生い立ちを探し、そしてその後何度も韓国を訪れる。これはフレディが"自ら気づいている訳ではない"が、フレディはどこか心の底で"確かな繋がり"を求めていて、「自分が何者なのか」を見つめ直そうとしている事がよく分かった。
これはフランスと言う異国で育った影響かもしれないが、フレディはとても"まっすぐな性格"で、比較的思った事はずけずけと言ってしまったり、行動にも移すタイプである。それゆえに"等身大の韓国の文化や民衆の行動"を露骨に示されると、困惑する。これはとても特徴を捉えた描き方だなと感じた。これはどの国にもいる遠い国で育ったアジア系の人々にも共通した描き方だ。

それにフレディの生みの両親の描き方もとても興味深かった。
「X」の私のアカウントでは父親の事について書いたが、ここでは"母親"の事を。
父親はかなりハッキリとした不穏混じりの描き方をしていたが、母親はかなり"薄れた"描き方と言うか撮り方をしていた。フレディが心を開いたテナや"育ての母親"とフレディの生みの両親との描き方にこれほど差があるのも、フレディの心情の描き方として実に特徴を捉えていて深かった。

繋がりを知った上で、フレディ自身は型にハマらない生き方を選ぶ…。
ラストのシーンも、これからも癒えないだろう怒りと困惑、そして哀しみと向き合いながらも前進する、フレディなりの再スタートの顕われなのだろうなと感じた。
主演の"パク・ジミン"の繊細で大胆な演技にも度肝を抜かれた。生みの父を演じた"オ・グァンロク"の演技も良かった。

こんなフレディの生き方に、どれだけ共感を感じた人はどれだけいただろうか?

それでも、フレディにとっては「ただの通過点」だったのかも……?
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