木蘭

NOCEBO/ノセボの木蘭のレビュー・感想・評価

NOCEBO/ノセボ(2022年製作の映画)
3.3
 エヴァ・グリーン大熱演の東南アジア呪術ホラー。

 ファストファッションをはじめとする先進国の植民地主義的な経済搾取を裏テーマにして、明度低めで彩度高めのヒンヤリとしたアイルランドの富裕層のお屋敷を舞台に、熱帯フィリピンの呪詛が炸裂する。

 とにかくエヴァ様が泣いて笑って、叫んで踊って(?)、遂にはのた打ち回る大熱演。
 ばっちりメイクで眼光鋭いいつものエヴァ様も、すっぴんで弱ってドロドロのエヴァ様も、甘えて可愛いエヴァ様も堪能できるファン垂涎の七変化(?)。
 女優エヴァ様が燃え上がります!凄い!

 画面の色彩もシックで美しいし、編集も丁寧だし、何よりヒロインの家にやってくる(ふっくらしたCoccoみたいな)フィリピン人女中が終盤まで敵なのか味方なのか分からないまま引っ張って不安にさせる作りは、なかなかサスペンスが在って良く出来ていました・・・


が、観終わってモヤモヤとした不快感だけが付いて回る作品だったので評価は低め。
 なぜそう思うのか、この作品に決定的に欠けている事を述べます。

 それは、正義も無ければ、何の救済も無いという事です。
 そしてそれは明らかに作劇の失敗で、おかげで割り切れぬ不快感だけが残ります。

 もし呪詛の成満が物語の主題となるのであれば、それは悪への復讐であるべきでしょう。しかし、観客は呪われる対象であるヒロインを、絶対に悪だとは思えないのです。
 なぜなら彼女は何らかの事情で罪を犯してしまったとしても、家族を愛し、他人の子供に心を配る事が出来、災害が起きた時にビジネスの損失ではなく被害者の事を考える善良な人間だと描いてしまっているからです。そして、何よりも罪の意識に苦しんでいる人です。
 それは既に罰を受けているという事で、罰を受けている人間に罰を与えようとする存在・・・それは悪です。

 しかも、この悪はヒロインに二重に罰を与えるだけではなく、罪のない彼女の家族や自分自身の家族、さらには本人をも傷つけ不幸にする・・・そして自身の目的の為に、最も無垢な存在に、最も残酷で罪深い行為をさせ、その罪を悔いる事もしません。ただ自分の悲劇を嘆くだけ・・・それは、ただの怨霊です。
 どんなに丁寧に呪詛者の人生と動機を描こうが、それはヴィランにも顔があると言っているのにすぎません。

 だからこそ、これは正義を為す復讐劇ではなく、外部から侵入した邪悪な存在におびえるホラー映画なのです。
 にもかかわらず、たとえバッドエンディングだとしても、何一つ救済が無いのは、落ちが無いのと同じ(最近、そういう安易な作品が多いけど)。
 とってつけた様な少女の微笑みで誤魔化されてもなぁ。

 そもそも裏テーマになっている、先進国の資本家(だけ)がグローバルサウスの労働者を搾取しているなどというのは、先進国の"意識高い系"が考えそうな単純な構図でしかありません。
 しかも、呪詛者の母祖たちが長い歴史のなかで受けついてきた大切な力を恐怖として描くのはともかく、代償として"白人"に譲り渡してしまっている事を、製作者たちはどう思っているのでしょう?それこそ植民地主義的発想では?

 中途半端に“正しさ”に寄り添った為に、復讐劇としても、ホラーとしてもカタルシスを得られず、不快感しか残らないのでした。
木蘭

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