脳内金魚

NOCEBO/ノセボの脳内金魚のネタバレレビュー・内容・結末

NOCEBO/ノセボ(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

予告編を見たときは「サイコスリラーかな」と思い、本編を見て最初はアジア蔑視が感じられ期待はずれだったかと思ったのだが、なぜアジアなのかそれも含めそれすら物語の構成要素であり、最後は見事な着地点だった。サイコスリラーやオカルトに見せかけて、実は深い社会問題を提起しており、かといってエンタメ性もきちんとある。作中のオカルト的な部分にもきちんとオチを着けていて、年末になかなか唸らせるいい映画を見た。

この映画は、先進国に搾取された後進国(ここではフィリピン)の労働者の復讐劇だ。そこに、東洋と西洋の文化風習の違いを恐怖を煽るファクターとしてうまく取り入れている。かつ、西洋から見たアジアのある種ステレオタイプな印象を忌憚なく描いている点も好印象だった。また、クリスティーンが徐々にダイアナに傾倒していく過程が、人がカルトにハマる様に重なる。それが、日本でも宗教二世が話題になる今、非常に没入感を得るのに一役買っていた。100分を切る尺のなかで、これだけの要素があるにも関わらず、散漫にならず、実にうまく各要素を回収しており、その点で構成も非常に上手かった。

クリスティーンはじめ家族三人ともが、ダイアナに若干の不信感と差別意識を示す。象徴的なのが、一人娘ボブスのダイアナへの態度だ。大人であるダイアナに対し、ボブスは初対面で失礼な態度を取る。その後も食べ着けない料理に対し不満不平を並び立てるが、両親は「美味しいよ」と言うだけで、彼女の言動を強く嗜めたりはしない。このボブスを通して、そこはかとなく「アジア人」へのスタンスが透けて見えてくる。子供は親の鏡とはよく言ったものだ。
あるとき、クリスティーンの不調に対し、ダイアナが民間療法のようなものを施していく。はじめはその効果に半信半疑だった彼女だが、明らかに体調が改善する。西洋医学ではいっかな改善がみられなかったのにだ。それだけに、クリスティーンは、急激にダイアナに心を許す。それだけでなく、その後の夫とダイアナとのやりとりで、彼はクリスティーンのそれは精神的なものだとしている。クリスティーンは、医学的にも精神的にも(あと実は就労面でも)孤立無援状態であることが分かる。そんなときに、自分に寄り添うだけでなく、現状を改善してくれた存在があったならどうするだろうか?果して、それに依存せずにいられるだろうか?
ここまでの経過で、登場人物と同様に、我々観客もダイアナの行動は断片的にしか見せられない。そのため、確かに同じアジア人である日本人の自分から見ても、彼女のしていることは東洋医学どころか、正に民間療法でしかない。そのため、夫がダイアナに忠告するのも分かるのだ。だが、そこに至るまでの夫の態度が、やはり先に言ったように「アジア人」へのそこはかとない蔑視が透けて見えるのだ。欧米に出稼ぎに来るしかない、現代医学もない学も何もない、アジア「女」だと。その辺りの男女の隔たりも、クリスティーンとダイアナの結び付きが強固になっていく理由なのかもしれない。ボブスの心を掴むのも、男親と娘の心理的隔たりがあるのかもしれない。

正直、このあたりではなぜフィリピンなのかなと思っていた。民間療法云々ならアフリカとかでも、話は成立するのではと思ったからだ。そう思いながら見ていると、なるほどなるほど。確かに、これはアジアである必要があるなと、思わず膝を打ちたくなった。メインは社会問題なのだけれど、ラストもきちんとオカルト的オチをつけていて、正に「毒を食らわば穴二つ」。提示された要素を見事に回収しきって、物語の後味は別として、構成的にはすっきりする作品だった。
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