netfilms

Single8のnetfilmsのレビュー・感想・評価

Single8(2023年製作の映画)
3.7
 仰ぎ見る母艦をどこまで大きく臨場感溢れるように撮ることが出来るか?高校生の広志(上村侑)は最初はその1点にしか関心がない。ジョージ・ルーカスも思わず苦笑したに違いない銀河系をスクロールする文字列の後、突然青春群像劇の幕が開く。1978年、世界中を熱狂の渦に巻き込んだ『スター・ウォーズ』が1年以上経ってようやく日本で公開され、8mm少年だった広志は突然、映画を撮りたい衝動に駆られるのだ。『スター・ウォーズ』でも何か別の映画でも良いのだが、思春期に初期衝動に溢れた世界に感化され、映画を撮りたいと思い立つ少年たちがいる。金もなければ技術も仲間もいない。しかし海の向こうの映画の感動をマネしたいという情熱だけはある。しかも彼には8mm短編を撮った経験もある。だが多感な高校生のことだから、何をどうすれば映画が撮れるのかがわからない。そこに1人また1人と主人公の広志の思いに共鳴する仲間が現れる。何とも無邪気な青春群像劇は最近の壁ドンをするようなキラキラした恋愛模様ではなく、NHK教育テレビ(今のeテレ)の『中学生日記』のようなカラッとした爽やかさで何だかナイーブだ。先生がいて生徒がいる教室。決してクラスで目立つタイプではない広志は密かにクラスのマドンナである夏美(高石あかり)に恋している。

 単なる思い付きのアイデアそのものは実験でしかないが、そこに友人から驚くべきヒントがブラッシュアップされ、やがて1つの確固たる物語が紡がれて行く。その過程はまさに映像作家から映画監督への成長そのものと言っても過言ではない。スーパー8にせよ、シングル8にせよ、多重露出による合成がハードの醍醐味だった。今作はそれらハード・ウェアの詳細を紐解きながら、当時の8mm撮影の成功と失敗をとをわかりやすく浮き彫りにする。トライ&エラーをひたすら繰り返しながら、現代のデジタルのように企てがすぐに明るみに出ることはなく、現像までにタイム・ラグが生じる微妙な世界線。カメラ屋の店員で大学生の寺尾(佐藤友祐)の助言を受けながら、見よう見まねで段々とコツを掴んでいく彼らの足取りを我々観客はつぶさに追体験する。こうして今1本の映画が出来上がる。夏美は彼らに心酔しているように見えて、浮いた存在だ。それは彼らが寝過ごした授業をいとも簡単に聞いていることからも明らかだろう。撮影は最期まで付き合うが、その後の編集には全く関心がない。迸る映画愛を発動させながら、一向に振り向いてくれない女性の描写は大変奇妙だが、スピルバーグの『フェイブルマン』とも符号を見せる。とはいえ『スター・ウォーズ』を夢見たはずの物語は、どこからどう見ても『ウルトラマン』への深い愛情を隠さない。これは『カメラを止めるな』のわかりやすいオマージュであり、平成『ウルトラマン』への深い愛情だと思う。
netfilms

netfilms