木蘭

⻘いカフタンの仕立て屋の木蘭のレビュー・感想・評価

⻘いカフタンの仕立て屋(2022年製作の映画)
4.0
 前作で未婚の出産というモロッコ社会のタブーを描いたトゥザニ監督が、今作では同性愛というタブーを描く。

 カサブランカからサレに舞台となる街が変わったものの、やはり旧市街の伝統的な職人を主人公にし、主演女優も撮影監督も、なんなら共同で脚本を書いたプロデューサー(監督の夫)も変わらないので、ほぼ前作と仕上がりは変わらない。
 旧市街の建物も、伝統衣装のカフタンも、ただでさえ被写体が美しいのに、撮り方が素晴らしくて、食べ散らかしたテーブルの上でさえ一枚の絵のようだ。

 まさに映像詩というべき作品で、台詞は余り多くなく、画面に映し出された映像が全てを語っていく。
 特に、ゲイである事を隠している(つもりの)夫を演じるサーレフ・バクリの、秘めた思いや耐えがたい現実や未来を口に出す事で、全てが壊れてしまうのでは無いかと言葉を飲み込み続けている、静かな演技が素晴らしくも切ない。

 と言う事は、直接描写が多いと言う事で、これはイスラム圏では大丈夫なのか?というシーンも多い。

 例えばハマム(公衆浴場)が非公認のゲイの性交渉の場となっているのだが、同性愛自体はコーランで禁じてはいなくても肛門性交は明確に禁じられているので、(流石に直接は映さないが)かなり攻めた描写になっていると思う。
 ヒロインを演じるルブナ・アザバルは、モロッコ人の父親とスペイン人の母親との間に生まれたベルギー人なので脱ぎっぷりが良く、彼女だからこういう直接的な裸体や性愛の描写が可能だったのは大きいんだろうな・・・。

 自分を精神的に必要としている夫に対して、母親のように、されど男としても性愛を感じながら接している妻が、夫の性的はけ口を求める事に対して寛容なのはともかくとして・・・若い思い人が出来るというのは許容出来るのだろうか?自身が病身で、託せる人が必要という気持ちは分かるのだが。あれが若い女だったら、どうなんだろう?
 結局は夫婦の事は夫婦にしか分からないよな・・・等と思いながら、3人が食卓を囲んだり、笑顔で踊ったりするシーンが、ただただ悲しくて泣いていた。
木蘭

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