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⻘いカフタンの仕立て屋のumisodachiのレビュー・感想・評価

⻘いカフタンの仕立て屋(2022年製作の映画)
4.8


モロッコで伝統衣装の職人をしているハリムと妻のミナ。時間がかかり効率が悪いカフタン職人になりたがる若者はなかなかいない中、筋が良いユーセフという若者が店を手伝い始める。穏やかながらも信念を持って店を営む彼らだったが、病魔はミナの身体を確実に蝕んでいて……。

モロッコの街角と、あまりにも美しいカフタンに彩られながら紡がれる人間賛歌。イスラム教の戒律と父親からの抑圧によって苦しめられてきた夫を支えてきた妻と、妻への深い愛情と内なる欲望との間で苦悩する夫。そんな彼らを静かに見つめる若者。

3人がそれぞれを深く思いやり、相手のために生きようとする想いと自らの心の奥底にある想いとの間で揺れる様が、丁寧に丁寧に描かれていく。視線だけで、ほんの少しの手の動きだけで、痛いほど感情が伝わってくるから不思議だ。終盤でミナの病名が明らかになるのだが、「ああ、だからか……」とそれまでの彼女の一挙手一投足が蘇ってきた。1秒1秒が濃くいから、それまでのあらゆるシーンが脳裏に焼き付いていたのだ。

大衆浴場がいわゆる「ハッテン場」なのか!とか、カフタンにまつわる文化的な驚きなども興味深い。日本と同じような感じでミカン食べるんだなあ、とかね。言い方を変えると、そういった文化的かつ日常的な要素をとても大切にしながら、ある意味で「ごく普通な」人々がいかに深淵な想いや悩みを抱えているのかを追及している。市井の人々が、戒律や常識に囚われ苦しんでいること。そして、その苦しみすらも包み込むような愛が世の中には確かに存在すること。本作が表現するのは、このシンプルかつ本質的なテーマだ。傑作。






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