じゅ

To Leslie トゥ・レスリーのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

To Leslie トゥ・レスリー(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

俺だって夜中パンイチで遠吠えしながら駆け回りてえ。警察に諦められてえ。

モーテルのVHS再生機一体型のテレビは東芝製なのな。どうでもいいけど。


ある町で宝くじで19万ドルの賞金を手にした一児の母、レスリー。酒は奢りだとテレビカメラの前で叫んだ6年後、彼女は金も職も失っていた。町を捨てて移住した先のアパートを追い出され、レスリーは6年ぶりに息子ジェームズを訪ねる。19歳に成長した息子は、かつて自分を置き去りにした母を迎え入れた。酒は飲まないと約束した次の朝、息子が仕事に出た途端にレスリーは息子の金を漁って酒を買いに行った。ついにルームメイトのダーレンの金にまで手を出した頃、息子に全て見つかり、レスリーは地元でかつて親友だったダッチとナンシーの元へ送り返された。
彼らはレスリーを快く思っていなかったが、ジェームズの頼みだからと受け入れた。しかしレスリーはすぐにバーで酒に浸り、地元の人間のピートがナンシーに連絡すると、ナンシーはレスリーの荷物を放り出して鍵を掛けて彼女を締め出した。再び路頭に迷ったレスリーはとあるモーテルの外で野宿するが、朝には追い出され、向かいのかつてアイスクリーム屋だった廃屋に逃げ込んだ。
この路上生活者を気にかけたのは、ロイヤルと共にモーテルを経営するスウィーニーだった。彼はレスリーの過去を知るロイヤルの反対を押し切って、レスリーを住み込みの清掃員として雇った。スウィーニーの厚意を裏切るように、レスリーは給料を前借りしてバーで飲み明かし、毎朝仕事に遅刻した。そんなある夜、バーで流れた1曲の歌にレスリーは突き動かされ、帰って吐いてアルコールを抜くと、翌朝から真面目に働くようになった。彼女はついに断酒を決意した。スウィーニーは愛想を尽かして解雇しようとしていたが、彼女の改心に免じて再び機会を与えた。手を震わせながら酒を我慢した甲斐があって状況が好転してきた頃、レスリーはスウィーニーとロイヤルに誘われて地元の行事に行ったが、レスリーはナンシーやピートの子供まで使った卑劣な嫌がらせを受ける。喧嘩になって帰った夕方、スウィーニーは1本のVHSを持ってきた。宝くじ当選のインタビュー映像だった。家を買いたい、ギターがほしい、息子に良い物を買いたい、ママの夢だったダイナーを開いてほしい、・・・・・・。彼女を元気づけて息子への愛は本物だと伝えたかったスウィーニーの気持ちとは裏腹に、レスリーは荷物をまとめて出ていってしまう。町中車を走らせて捜すスウィーニー。レスリーはバーで酒を頼んだが、飲まずにモーテルの向かいの廃屋に戻って一晩を明かしていた。
翌朝、スウィーニーを叩き起こしたレスリーは、心配した彼の怒りを意に介さず廃屋をダイナーにしたいと言い出した。10ヶ月後、LEE'S DINERは無事開店の日を迎えたが、朝から晩まで客は1人も来なかった。店を閉めようとした頃、1台の車が店の前で停まった。現れたのはナンシーだった。地元民に店に行かないよう手を回していたのかと怒るレスリーに、ナンシーは2人分の席を要求した。ナンシーは、レスリーがジェームズを置いて出ていったことは許さないと前置きした上で、レスリーが酒に溺れて破産する悲劇を止めることができたのに面白がって助けなかったことを懺悔した。ナンシーが店を出ると、次に入ってきたのは車で遥々やって来た息子だった。寂しかったと抱き合う親子。線路沿いにぽつんと建つ小さなダイナーから、細やかに明かりがもれる。


ライズボローさん初めて見た(というか認識した)のが、半年ちょい前に観た2018年の『バーデン』でKKKの男をレイシズムの世界から解放する重要な役割を果たしたジュディの役で、同年のあの『ナンシー』と同じ人だって気付いて、その後2020年の『ポゼッサー』で委託殺人の工作員のタシャ・ヴォス役をやってるのを見た。(『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』と『アムステルダム』は劇場行く時間取れなくて見逃した。)
数作しか出演作観てないけど、なんかどれも役柄の癖が凄すぎてこの人まじで何でも出来すぎる感ある。

こんな底辺も底辺なクズも上手いんか。
ケロッとしたツラでちょこんと座って朝にコーヒーか何か知らんけど飲んでて、大人しい振りしてジェームズを見送って出てった瞬間ダッシュで息子の部屋に駆け込んで財布漁ってクローゼット漁って箪笥漁って片っ端から衣類のポケットに手を突っ込んで出てきた端金を握りしめて酒屋に駆け込む。その前に服とか下着とかジェームズに買ってもらってたな。どっちが親だよ。レスリーを匿って酒盛りした向かいの人にジェームズが苦情を入れて喧嘩して、ルームメイトの金にまで手を出して地元に送り返すことになればレスリーが喚き散らしてジェームズの生活なんぞ考えず自分本位で逆ギレしてた。どっちが親だよ。
送り返された先でも酒飲んで追い出されりゃ扉ガンガン叩いてやんややんや叫びまくってら。逆ギレの化身なの?

アル中はまあ、どこの製作だったか忘れたけどアマプラでアル中の人たちを追ったドキュメンタリーを観たことがあって、時に病院すら手の施しようがなくなるくらいまじで根の深いもんなんだなと思ったことはある。周りにいてくれた人たちも金も職も何もかも全部失ってとことん酒に痛い目に遭わされて、自ら死を選ぶ一歩手前なんじゃないかってくらい打ちひしがれて、酒は本当にだめだって痛感した上で、自己嫌悪に染まりながらまた酒を買いに行くんだよな。そんなことになるともう理解の範疇を超えすぎて、同情すりゃいいのか戒めの気持ちを抱けばいいのかわからんようになる。
だから、金を盗んで隠れて酒を飲んでたことをジェームズにばれた時に、「私は病気なの」みたいなことを言ってた場面はすごく複雑な気持ちになった。憤りと憐れみが同時に来る。ちゃんとクズっぷりを発揮するし、ちゃんと自制が効かず途方に暮れた感も発揮しやがる。
そんなことができてしまうアンドレア・ライズボローさん。


それだけじゃなくこのレスリーが興味深いのが、これはライズボローの腕じゃなく監督のマイケル・モリスとか脚本のライアン・ビナコの腕かもしんないけど、レスリーの欠陥って過去との付き合い方の下手さにもある気がする。まあでも俺らだって誰しもそうなのかもしれん。

まず当然として、宝くじが当たったことなんぞ掘り返されたくない。要は結果として人生を狂わせた出来事だから。でも、スウィーニーが言う通りそれからの転落って結局のところ自分自身が招いた結果だというのなら、この過去こそちゃんと向き合って正していかなきゃいけないものだったんだよな。

一方で、男に色目を使って酒を奢らせようとする場面があった。こっちはたぶん、もうくそどうでもいい過去でしかない過去にすがってた。直接的には、ナンシーに家から締め出されるきっかけになったバーでカウボーイに声をかけたところ。それと、たぶん冒頭でアパートから追い出された後で赤いドレス(?)でバーに行ってた時もそうだったのかな。あとはそのカウボーイに声かけるくだりで、賞金が当たった時の写真はもう貼ってないのかとマスターに聞くところ。
かつてはレスリーと踊りたい男たちが列を成して待ってたんだと。レスリー(というかライズボローさん)ガチ美人だからまじでモテてたのかもしれないし、はたまた奢ってもらいたい蟻がたかってただけかもしれないけど、どうにせよレスリーには一番ちやほやされた楽しい時期だったんだろうな。そんな過去の栄光、いつまでも振りかざしてもしゃーないのに。


そんなレスリー、急にカス人間役をバトンタッチされたナンシーとかちんぽに脳が搭載されてるみたいなピートに、子供に煽らせたり宝くじのインタビューの真似事(?)をしたりする嫌がらせを受けて喧嘩した後、スウィーニーが良かれと思って持ってきたインタビュー映像を見せられて蓋をしておきたかった過去がこじ開けられることになる。
自分のダイナーを開きたかったんだ。そして実際それを成し遂げた。目的を保つことが大事とは言うけど、レスリーはまさにそうやって目的を持つことで転機を迎えたんだな。息子と約束した「計画を持つこと」を達成してやっとジェームズに顔向けができたし、ロイヤルのポケットからくすねた酒も飲まずに耐えれたし、これから状況が良くなっていくことを物語の外から願ってる。

過去と向き合うと言ったら、ナンシーにも向き合ったものがあったんだろうなと思う。
レスリーが幼かったジェームズを置き去りにしたことをナンシーが責めた時、レスリーが「あんたが何をしてくれた!」みたいなかんじでブチギレてた。さらっとその場面は流れたけど、あの言葉がレスリーの転落をおもしろがって助けなかったことの懺悔に繋がったと思ってる。(そうでもなきゃあの和解は急すぎる。)
レスリーは、来店初日に客が来なかったのはナンシーが根回ししたからだと思って、「嫌がらせなら去年やっておけばよかっただろ」的なことを言ってた。レスリーが目的を手にして人生を立ち直らせるのに10ヶ月かかったように、ナンシーもあの時の自分の落ち度に目を向けて認めるのに10ヶ月かかったのかもしれん。

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だから何ってわけじゃなくて、単に知らなかったからググっただけのことだけど、レスリーが自分の母について言ってたバプティストというのは、プロテスタントの教派の1つなんだそう。
浸礼派と書いて、幼児洗礼を認めず自覚的な信仰告白に基づいて全身を水に浸す洗礼(=浸礼)を主張するんですって。外的な形式や制度より霊的な信仰の自由を重視して、教会の独立自治を唱えるのだと。コトバンクに書いてたけど、なんとなく字面からわかるようなわからんような。
じゅ

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