ハル

To Leslie トゥ・レスリーのハルのレビュー・感想・評価

To Leslie トゥ・レスリー(2022年製作の映画)
3.9
宝くじが当選し「全員、私の奢りよ!!!」の冒頭からスタート。
一転、物語中盤には「みんな映画のような人生を望んでいる。だけど、人生は厳しい。やるべきことをやり、人を傷つけず生きていくんだ」と、諭される。
アルコール依存症のレスリーにかけた、厳しくも優しい同僚の言葉が沁み渡っていく。

冒頭の件を見るだけでこの人はやらかすだろうな…と感じてしまった。
ノリだけで生きているような、だいたいこの手のタイプは歯止めがきかないよね。
そして、本作は開始後約1時間、如何にレスリーが酷い状態なのかを詳らかに描いていく構成。
さながら、アルコール依存症のレクチャータイム。
息子に嘘をつき、酒を飲み追い出される。
旧友に嘘をつき、酒を飲み追い出される。
人間関係も生活ルーティンもひたすらこの繰り返し。

最後の砦である仕事をくれた人も裏切り、酒を飲む…
しかし、人格者であるモーテル経営者スウィーニー(といっても従業員一人の小さな小さなモーテル)はそれを許す。
そのお陰で少しずつ 少しずつギリギリからの歩みを始めるレスリー。
落ちるところまで落ちた彼女、この人がいなかったらのたれ死んでいたと思う。
だからこそ、本当の意味で命の恩人。
捨てる神あれば拾う神あり。
にしても、経営者としてはやはり雇うべきではないと思うけど…

そこからは三歩進んで二歩下がるのリズム。
見終わってからの正直な感情としては、この人はまた依存症に戻っていくんじゃないのかな?だった。
このまま順調に行くとは到底思えない。
躁鬱病に近い精神状態に見えるし、精神を自分でコントロールできていない姿は滑稽で哀れだ。
「私は病気なの!!」
確かにそうなんだけど、だからといって他人に迷惑をかけていいわけではないし、みんなボランティアで生きているわけではないからね。
周りから人が離れていくのは自明の理。
最後は下手に伸ばさず、スパッと切れ味鋭くエンドロールへ突入する流れになってるけど、この演出は良かった。

ちなみに今作はリアリティに特化しているぶん、くどく感じてしまう部分もちらほら。
密度の濃い描写の数々は勉強になるけど、映画作品としては重たく、テンポ感の悪さも目立つため、そこは気になる部分。

なお、自分の周りで断酒できたケースはだいたい大きな失敗をした後。
酔って転んで前歯を数本折ったり、急性アルコール中毒で命の危機に直面したり…百聞は一見にしかず、ではないけど依存症にまでなったひとは他人の言葉なんか寝耳に水。
とことん痛い目を見るしか無いんだと思う。
僕はほとんどお酒を飲まないため、そもそも酔ったことがなく、レスリーの気持ちに共感できるポイントはなかったが…
お店で倒れたり、リバースしている方を時折見かけると、こんなふうに他人へ迷惑をかけて何が楽しいんだろう?としか感じないんだよね。
『楽しいのは自分だけ』の生き方って淋しくない?
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