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ナイン・マンスのmoriのレビュー・感想・評価

ナイン・マンス(1976年製作の映画)
4.2
メーサーロシュ・マルータ監督特集、「ナイン・マンス」
事前情報を入れずに観て正解だった。

ユリのアイデンティティは常に脅かされる。
閉鎖的で旧態依然とした社会が、「愛してる」と耳元で囁く男の幼稚性が、見えぬ鎖で彼女の自由を奪い
所有物として家庭に縛り付ける。
男に身体を貪り食われる彼女の言葉が苦しい。
「あなたにとって私は動物と同じなのね。」

そもそもこの恋が上手くいくはずがないのだ。冒頭、真っ二つに引き裂かれた豚の肉塊の横で発せられる「君は運命の人だ」で始まる恋なんて。そんな言葉はただ上滑りするだけだ、滑稽だ。というかユリは男の趣味が悪過ぎる。

そしてラストシーン。あまりに痛々しく、恐ろしく、神秘的な瞬間。映画と現実との境目を破壊する痛烈な一撃に度肝を抜かれた。(それを目にするのは初めてだった。)
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