1968年から1978年、この10年間に隆盛を極めた黒人映画の変遷と意義、現代に与えた影響を検証したドキュメンタリー。
自分は何も知らなかったんだと思った。この時代の黒人映画というとクライム・アクションやサスペンスでタフなダンディーな男性黒人とこれまたタフでセクシーな黒人女性が差別的で悪い白人に一泡ふかせる様式のブラックスプロイテーションしかないと思ってた。
しかし、実態は全然違っていて文芸映画や社会派ドラマ、ホラー、ラブコメ、ミュージカル、アート系と実に多種多様な黒人映画が制作されそれらがヒットしていた。
黒人映画の台頭は60年代に入りオールドハリウッドが時代の空気に対応できず旧態依然とした白人を美化した映画ばかり作り客を失ったことと、代わりに支持を得ていたアメリカン・ニューシネマのアンチヒーロー、アンチクライマックスがその煮え切らなさから飽きられていたことにある。
黒人映画もニューシネマのように現実の苦さを描いていたが、主人公や登場人物達がニューシネマとは違っていた。
何かに戸惑い暗め眼でいじけてるニューシネマの主人公達と違い黒人映画の主人公達は自信に満ち溢れ堂々として辛い現実や不条理な支配に立ち向かい爽快に勝利していった。この娯楽映画本来のカタルシスを取り戻したことが大きいように見えた。
そして、描かれることがなかった黒人社会の現実、白人の横暴をしっかり描くリアリズムも黒人以外の多くの人種から支持された。
つまり、白人主体のハリウッドが見失った大衆が映画に求める要素を全て表現していた。だから流行るのは必然だった。
それと、黒人音楽の力も大きい。黒人映画のヒット作のサントラには大物ミュージシャンが音楽を手掛けているものがある。『シャフト』のアイザック・ヘイズ、『スーパーフライ』のカーティス・メイフィールド等、ヒップでクールなファンクやソウルを鳴らすミュージシャン達の楽曲が映画の格とイメージを上げている。
個人的に『スーパーフライ』のカーティス・メイフィールドのサントラは名盤だと思う。全ての楽曲が映画と密接にリンクして、主人公の目線から見たスラムの惨状、彼の苦悩を見事に表現してる。カーティス本人もクラブのミュージシャン役で出演していて、このライブシーンが超絶かっこいい。
そんなわけだからサントラ不遇と言われたこの時代、黒人映画のサントラだけはバカ売れした。サントラを先に売って映画のプロモーションにもしていた。
このサントラをかっこよく仕上げて映画のイメージをアップさせる手法は後にハリウッドもパクる。80年代の『フラッシュダンス』や『トップガン』のサントラが最たる例。
そんな革命的でかっこいい黒人映画だけど、批判の声も多かった。黒人中心のキャストで作られてるが制作や監督は白人ばかりで黒人俳優達はハリウッドより安いギャラで使われ売上げは白人に吸い上げられている構図が問題視された。だからブラックスプロイテーションというジャンル名になったわけでこれは深刻な問題になった。
映画の中で黒人に夢を見せて不当な差別構造の温存に寄与していると『スーパーフライ』上映反対デモで辛辣な批判をするブラックパンサー党のボビー・シールのシークエンスが事の深刻さを物語る。
これは今でも論争になってるところで搾取的な意図があったとしても作れた映画とそのヒーロー達のお陰で今日の黒人俳優の躍進があるという肯定的な意見とそんなまやかしは通じない、差別と搾取であるという否定的な意見がある。
後者で代表的なのはスパイク・リーでタランティーノの『ジャンゴ』をブラックスプロイテーション的だと批判していた。一方でサミュエル・L・ジャクソンは自分と同じ黒人がかっこいい主人公を演じる映画に勇気づけられたと本作で語り全肯定している。
難しいねぇ、当事者じゃないアジア人の自分はブラックスプロイテーションは好きだけとしか言えないし、軽々しく語ってはいけないことだと思った。
本作は忘れられた黒人映画の魅力を余すとこなく伝えていて、実際、色々な作品を紹介してくれて楽しい。だけではなくそれ以前のハリウッド映画の黒人の侮蔑的な描写や白人が黒人をコミカルに演じて嗤うミンストレル・ショー的演出ばかりだったという闇もきっちり紹介してる。
そして、そんな差別的なハリウッドの中で俳優としての評価を獲得していくシドニー・ポワチエとバリー・ベラフォンテの苦闘、何気にここが一番黒人映画史を包括的に物語ってる気がした。
とにかく情報量が多く濃密で観ると疲れるけど、黒人映画に関心がある人は必見。
紹介された映画の中で何作かリメイクして欲しいのがあって、中でもCIAに利用された黒人がそれを逆手に取って白人社会を転覆させるストーリーのやつ、これをスパイク・リーでリメイクして欲しいと思ったけど、ブラックスプロイテーション否定派だから無理かな笑
てか、本作で紹介された黒人映画、特集上映か配信してほしいぜ😬💨
