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おやすみ オポチュニティのdalichokoのレビュー・感想・評価

おやすみ オポチュニティ(2022年製作の映画)
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ひとことでまとめると「人間ドラマ」だった。
火星探査ロボットを擬人化して、彼女たちスピリットとオポチュニティという双子の姉妹を応援する物語。言うまでもなくドキュメンタリーである。当初90日と予定していた活動が15年に及ぶものとなる。その過程で、ロケット発射から2億3,000万キロ先のホールインワンを決める始まりから、このプロジェクトに関わる人々の思いがこの映画には溢れている。
結果として15年も経つと、発射時点でボランティアとして見つめていた学生たちが、いつしかこのプロジェクトの中心になり、子供が生まれ、次の世代の探査機打ち上げを見つめるという輪廻。ラストシーンは感動的だ。このように、人間が集まり叡智を極め最大限の努力を重ねてオポチュニティを応援する人間ドラマ。それがこの映画の軸にある。

この映画は、これらの事実を関係者のインタビューと作られた本物と見紛うような映像を交互に編集することで、臨場感を高めている。最後にオポチュニティがセルフィ(自撮り)したときのシーンは言葉を失った。ここはとても映画的なシーンだ。

映画(に限らず映像は)つねに被写体をとらえ、見る側を結んでいる。しかし、撮る者の姿は常に意識の外にある。この映画のとてつもなく普遍的なところは、火星の映像を撮影しつづけるロボット自身、つまり撮影する側をみつめたところだと思う。見る側はその映像でしか何も想像できないが、その映像を撮る者を意識させる画期的な映画だ。

そしてもうひとつ画期的なことは音楽。音楽がNASAの無機質で重苦しい空気を変化させている。誰もが知っている多くの楽曲を流し、時に励まし、時に憂いを抱き、そして最後、オポチュニティからの音信が途絶えたときにビリー・ホリディがささやく「アイル・ネバー・シーン」を奏でてゆく。このシーンの感動は言葉にできない。

確かにこの映画はドキュメンタリーであり、事実をデフォルメして映画として成立させているが、それ以上に、映す側の存在と音楽を交えることで、より大きく普遍的な世界を想像させる。それは太陽系とかいう枠を超えた、もっと崇高で美しいもの、それがこの映画には詰まっていると思った。
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