翼

クリード 過去の逆襲の翼のネタバレレビュー・内容・結末

クリード 過去の逆襲(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

非常に賛否が別れると感じた本作。清濁合わせた総評が付けにくいので、良かった点/残念な点に分けてレビューしておきたいと思う。

◆良かった点
ロッキー作品はリングに上がるまでに様々なしがらみ・愛憎関係によって動機付けされ、その解消として試合でケリをつけるという極めてシンプルなスキームで成立している。そしてリングの上で殴り合いラウンドを重ねる毎に二人の存在が練磨されていき、理屈を超越して理解し合う結びとなる王道かつ絶対のフォーマットが存在する。この黄金の様式美こそロッキー作品が名作たらしめる理由と疑わないが、本作では「試合中、全ての景色が吹っ飛んで二人だけの世界となる」描写を文字通り具現化しており、正統なロッキーシリーズであることを思い出した。
リングの上だけでなく、試合後のロッカールームで向き合い和解する二人、というのが『ロッキー』と『クリード』の作品の違いだなと思う。口下手でボクシング以外何も知らないロッキーは、本作ではむしろシンデレラストーリーを歩むデイムと重なる。そして彼を見出しスターダムにのし上げた男こそアポロ=クリード。本作は紛れもなくロッキーシリーズではあるが『クリード』を冠する物語だなと思うのはこの点に尽きる。

◆残念な点
18年ムショにいたおっさんってちょっとトレーニングしたらヘビー級チャンピオンになれちゃうの?という疑念が根本的にリアリティを損失してしまっているので、ロッキー作品に必要不可欠な鍛錬描写に信憑性が失われてしまう。これは痛い。
デイムがジムに現れたり家に招かれたりするたびジトッとした湿度の不安が付き纏う。でやっぱり裏切るわけだが、過去のロッキー作品はそんな湿度やぬめりを吹っ飛ばすファイトを見せてくれる!と期待するもいつの間にかファイナルラウンド。そこまでのデイムのタフさ描写と完成された肉弾ボディの存在感が強過ぎてフィニッシュブローに沈むデイムに納得感が無く、なんだかなぁという幕切れ。
過去の因縁、家族愛、チャンピオンの復活劇とストーリーが濃厚なので一定に仕方ないとしても、その全てが結実する試合描写/ボクシングと向き合う描写に説得力とカタルシスが損なわれてしまうと根源的な魅力に欠けてしまうと感じた。
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