アメリカの長寿SFドラマ『スタートレック』(1966〜)映画版第1作目(1979年、通称TMP)のディレクターズエディション(2001年)を改めて4Kでリマスター&マッシュアップした本作(2022年)。40年以上かけて完成した現時点での最高級バージョンTMPです。音声はもちろんドルビーアトモスです。
まずディレクターズカット版のTMP、ひとことで言えば驚愕でした。あれこれカットされたTV放送版しか見ていなかったため、本来の劇場公開版との比較はできませんが、とにかくたまげました。
ミスター・スポックの涙と自爆待機命令という重要シーンをなぜカットしたのか?正直、これまでTMPと信じて見て来たすべてが揺らいでおります。
しかもそのうえ4Kリマスターですよ。40年前のCGはクールにマッシュアップされ、人々や船内インテリアも隅々まで輝いてました。独特なスタートレック書体で表示されるタイトルロゴやキャスト名までモーション付きで金色に光る念の入れよう。高解像度のおかげで見たくもないミスター・スポックの毛穴まで見えました。ここまでくるともう別の映画です。
このバージョンで見ると、エンタープライズ号はいかにも活気ある未来の宇宙船だなと言う感じがしてきます。臨場感が段違いです。宇宙基地もエンジニアリングルームもまるで本物のようです。本物見たことないですが。ロバート・ワイズ監督はレトロSFドラマだったスタートレックを現実にバージョンアップしようとしたのでは?と思うくらいの内容でした。
各シーンも物語のための継ぎはぎではなく、ごく自然に存在し、流れていたように感じました。職場の嫉妬まじりの確執とコミュニケーションの齟齬という、渋すぎる心の機微を描いたカーク艦長とデッカーのやり取りも、そうした厚みのある背景により説得力が出て味わい深いシーンになっておりました。
元々スローテンポで有名な作品ですから、タイパ重視の現代人には向かない内容かもしれませんが、エンタープライズ号に乗船したかのような臨場感をもってあちこち眺めて歩き回り、想像力でもって架空の未来世界を観光したいような人にはとても楽しいバージョンではないかと思います。自分はこちらの方が断然に好きです。