ぶみ

オットーという男のぶみのレビュー・感想・評価

オットーという男(2022年製作の映画)
4.0
町内イチの嫌われ者。
だけど…好きにならずにいられない。

フレドリック・バックマンが上梓した『幸せなひとりぼっち』を、マーク・フォースター監督、トム・ハンクス主演により映像化したドラマ。
町内イチの嫌われ者、オットー・アンダーソンが、向かいの家に引っ越してきた家族との交流をきっかけに変化していく姿を描く。
ハンネス・ホルム監督による2015年のスウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』のハリウッドリメイクとなるのだが、予告編しか予備知識がない状態であったため、オリジナル版があるとは知らずに鑑賞。
主人公となるオットーをハンクス、彼の家の向かいに引っ越してきた家族をマリアナ・トレビーニョ、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、オットーの妻の若き日をレイチェル・ケラーが演じているが、何より注目はケラー同様、ハンクスの若き日を演じているのが、ハンクスの実の息子であり、本作品が俳優デビューとなるトルーマン・ハンクス。
クレジットにトム・ハンクス以外に、もう一人ハンクスの文字があったため、まさかと思ったところ、やはりその通りであったため、後から小躍りした次第。
ただ、息子たちの中で、若い頃のハンクスに顔が似ているとのことで抜擢されたようだが、言うほど似ていなかったのは、ご愛嬌。
物語は、前半は、妻に先立たれ、偏屈な行動ばかり目立つオットーの姿を中心に、近所のゴタゴタがコミカルかつテンポ良く描かれるため、ここまででも十分面白いもの。
そして、もう一人の主役と言ってもいいのは、岸谷香似のトレビーニョ演じるオットーの向かいに越してきた家族の妻マリソルで、彼女のお節介かつ明るい雰囲気が、オットーに変化を与えていく様は、観ていて心地良い。
中盤以降、若き日のオットーと妻ソーニャの姿が回想シーンとして随所に挿入され、オットーが抱える心の影や、奇行とも取れる彼の行動原理が明かされていく展開は、彼の人生を紐解いていくかのようで、王道ながら、つい観入ってしまうことに。
そして迎えた結末も、想定の範囲内でありながらも、感動ポルノのような押し付けがましさが一切なく、静かに観る側の心を揺さぶってくる。
私のように地方の中小都市に住んでいると、ややもすると鬱陶しいと思いがちになる近所付き合いが、時に人生を一変させるほどの影響を与えることとなる様を、優しさ一杯に描き出し、オットーに対する見方が序盤とラストでは真逆となる展開が印象的であるとともに、SNSを始めとして、しっかりと時代を切り取った内容となっているのも悪くなく、お洒落なエンドロールまで見逃せない良作。

なぜなら君はバカじゃないから。
ぶみ

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